第59話 ファス平原のエリアボス(3)
一斉攻撃で再生が追い付かないほどのダメージを与える。それが今のところ最適解だ。
だが、それをするためには相手の動きを封じる必要がある。妻やぶーちゃんは攻撃時やその準備時に隙ができるからだ。
植物魔法による拘束は先程のように液状化で抜けられる。現状、うちのパーティーに他の拘束手段はない。だったら、せめて動きを遅くさせて回避しやすい状況を作るべきだろう。
「みんな、火魔法を準備するから少し時間を稼いで欲しい」
俺は前線をマモルに任せて後ろへ引く。
「わかった。私も前に出るね」
「えっ、危ないよ? 自分の耐久力の低さ忘れたわけじゃないよね」
「大丈夫だよ。いつもは魔法の準備とかで動けないことが多いから、忘れられてるかもしれないけど、私速さのステータスも高いんだよ?」
いや、ダークエルフが魔力と速さが高い種族だっていうのは覚えているけど……耐久力が低過ぎるから今まで、前衛を頼もうとはしなかったんだよ。
「そんな心配そうな顔しないでよ。反撃なんて考えずに本当に避けるだけだから。それなら被弾する可能性も減るでしょ?」
考えていることが顔に出ていたらしい。妻から更なる説得を受ける。
「わかった。それじゃあ、魔法発動までの時間稼ぎはお願いするよ」
「任せて! すらっち、ハイトが攻撃されたら、スキルを使って守ってあげてね」
妻からの指示を聞いたすらっちが俺の頭へと飛び乗る。そしてブルブルと震えた。たぶん分かったと返事をしたのだろう。
俺は後方から火魔法の魔法陣を展開する。
使用可能な火魔法、ヒートラインは魔法陣を起点として選択した方向とその反対、2方向に触れると火傷状態にする火線を発生させるものだから、当てなければ意味がない。
必ず火傷を負わせるためにもまずは相手の行動を分析しよう。
戦闘が始まってから今まで、その間の敵の攻撃の種類は3つ。大きく跳び上がってのしかかり。液状化して丸吞みしようとする。そして遠距離からの溶解液の散弾攻撃だ。
溶解液による攻撃以外は全て、こちらへ接近している。それも複雑なフェイントなどはなくただ、真っ直ぐに襲いかかってきた。ボア系の突進のようにスキルによって行動が制限されているわけではないと思うが、単純な動きしかしていない。
それなら前でビッグスライムの相手をしている妻とマモルの近くに設置するべきだろう。そうすれば攻撃をしようと突っ込んできた相手の方向へ火線を発生させてすぐに焼くことができる。至近距離なら回避される可能性も減らせるので良い案だと思う。
考えがまとまったので、俺は火の魔法陣をマモルと妻のいる間へと展開する。
ビッグスライムは溶解液の散弾攻撃をすらっちによって7割近く無効化されるので痺れを切らしたらしい。前衛の2人を攻撃しようと距離を詰め始める。
敵が選択した攻撃方法はのしかかり。ブルブルと震えた後、大きく空へと飛び上がり標的を押し潰さんと落下する。
しかし、マモルも妻もかなりの速さを有する。あれだけ分かりやすい予備動作の後に攻撃したところで当たることはない。
「火魔法、ヒートライン!」
ビッグスライムが見事に魔法陣の近くへ着地した。それを確認した俺は魔法を発動する。魔法陣から瞬く間に火線が広がり、その直線上にいるものを焼く。
体を焼かれたエリアボスは熱さのあまり飛び跳ねる。水色の巨大球体が激しくもがき苦しむ様はなんだかシュールだ。戦闘中なのにそんな感想が浮かんでしまう。
「ハイト、なんかいつもより苦しんでない?」
「やっぱりそう思う? 別に熟練度が上がったわけでもないから、俺の方は何も変わってないんだけど」
「じゃあ、弱点だったとかかな。それならあそこまで苦しんでいるのも納得できるし」
「かもしれないね。だったら、今のうちにみんなで1番火力の出る技の準備をしようか」
仮に火属性が弱点だったとしても、ヒートラインは火傷と少量の割合ダメージだけなので今の一撃で倒し切ることはできない。やはり倒すなら、相手が攻撃してこない間に全員で攻撃するしかない。
「わかった。すらっち、私たちが攻撃するタイミングに合わせて溶解液お願い! ぶーちゃんは私たちの攻撃がやんだとき、相手が生きていたらトドメに突進で」
「マモルはぶーちゃんに合わせて攻撃をしてくれ」
焼かれてしまったエリアボスはようやく体に移った炎を消し、落ち着きを取り戻した。そして自身が体の一部が火傷によって変色しているのを見て怒り、体を大きく震わせ始めた。
「ハイト、準備できたよ!」
「それじゃあ、攻撃しよう。いっせーのーで! スラッシュッ!!!!」
「ダークバレット!!」
飛来する斬撃。
貫く闇の魔弾。
身を溶かす溶解液。
攻撃に移ろうとしていたビッグスライムはそれらを避けられなかった。
スラッシュで体表を傷つけられ、そこをダークバレットで抉り貫かれる。それでも死なないエリアボスはすぐに体を再生しようとするも、追い撃ちとして溶解液がぶっかけられて、それを阻まれる。
プゴッ!!!
再生することに必死になっているところへ、ぶーちゃんが全速力で突進。マモルもその後ろについてトドメを刺さんと迫る。
「やっちゃえ、ぶーちゃん!」
妻の応援を背に受けて、ぶーちゃんは青いゼリー状の球体へと正面からぶつかる。ビッグスライムは物理耐性によりその威力を大幅減少させるもノーダメージとはいかない。痛みから僅かに体を震わせたのが見えた。
そして最後は虫の息となったところをマモルが自慢の牙でサクッと終わらせたのだった。
<エリアボス、ビッグスライムを討伐しました>
<見習いテイマーのレベルが1あがりました。SPを2獲得>
<見習い戦士のレベルが1あがりました。SPを2獲得>
<火魔法の熟練度が規定値に達しました。火魔法、ファイヤーボールを習得>
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