第57話 ファス平原のエリアボス(1)


 翌日、ゲーム内で日が沈み始めた頃にログインした。目的はファス平原方面の攻略。主戦力であるマモルを連れて行くためにこの時間帯を狙った。

 経営地開発の方の足りない木材集めはアネットさんたちがしてくれることになったので俺たちはいなくてもいい。そのため空いた時間でやるべきことを消化していこうと思ったのである。


「イッテツさんに鉄武器を打ってもらうためにがんばろう」


 鉄武器を作ってもらうためには鉄鉱石を入手しなければならない。攻略組が一部公開した情報によってこちらの方面で鉄鉱石が確保できる場所があるのは既にわかっている。

 本音を言えばもっと詳細な内容を情報屋から買って攻略に出たかったが、シャムさんと予定が上手くすり合わせられなかったので仕方ない。


「うん! 私もお願いしたら、鉄の短剣用意してもらえるかな?」


 妻はサブ武器の短剣を作って欲しいようだ。短剣術(初級)を持っているのなら護身用に買った方がいいと俺がおすすめしたからかな?


「今度聞いておくよ」


 今日のメンバーは俺と妻、それからマモルにすらっち、新参者のぶーちゃんだ。バガードはアネットさんについていれば、いつもと違う昼ご飯を楽しめることに味をしめ、大工さんたちが伐採をする期間ずっと案内兼迷子探し役をする気らしい。よって、今回はパーティーから外れている。


 ファーレン周辺では1番人気のフィールドであるファス平原だが、俺たちは久しぶりにきた。

 夜かつ他のプレイヤーたちも先のフィールドへ進んでいる者が結構出てきているので、以前よりも人が少ない。


「こっちに真っ直ぐ走ってくるやつがいる」


 気配察知に敵がかかったことをパーティーメンバーに伝える。


「たぶんレッドボアだよね。だったら、ぶーちゃんの出番! 上位互換の突進をお見舞いしてあげて!!」


 妻からの指示を受けて、ぶーちゃんが突進の準備を始める。後ろ脚で何度か地面を蹴って、砂ぼこりを上げる。準備動作が終わったのか、真っ直ぐに走り出し全速力で突き進む。


 前方から迫るのは赤い猪。

 それを迎え撃つ巨大黒猪。


 両者、真正面から激突。

 すぐに勝敗は決した。


「ナイス、ぶーちゃん!」


 同系統の魔物による同スキルの激突は基礎ステータスが高い方に軍配が上がる。

 妻は仲間になって初めての戦闘でぶつかり勝ったぶーちゃんに抱き着いて褒めた。


 それからも見知った魔物と何度か遭遇するが、戦いたがりのマモルが次々と潰していく。すらっちは溶解液を飛ばすことでマモルが敵を倒す前にダメージを与え、仕事をしてます感を漂わせていた。一方、突進しかないぶーちゃんは全く何もする間もなく戦闘が終わる。


 そんなこんなでファス平原を移動していると、大きめの気配がスキルに引っかかる。


「大きい気配を見つけたよ。たぶんエリアボス」


 俺の言葉で皆が敵を警戒して移動速度を落とす。ただ、1体の従魔を除いて。


「ぶーちゃん!?」


 きっと最初の1戦以外、ほとんど見せ場がなかったのを気にしていたのだろう。今度こそ、主人や仲間たちにカッコイイところを見せようと思ったのか、いきなり突進をし始めた。


 曲がれないぶーちゃんは、真っ直ぐに敵の気配へと突っ込んでいく。


 プギィ!?


 次の瞬間、ぶーちゃんの悲鳴が聞こえた。


 俺たちは駆け足で敵へと接近する。

 相手を警戒して慎重に進むつもりだったが仕方なし。仲間の危機を放っておくわけにはいない。


「見えた!」


 ようやく相手が見える範囲に入った。




ビッグスライム(エリアボス)

ファス平原に生息する大型のスライム。通常のスライムが少しひしゃげたような形をしている。




 予想通りエリアボスだ。

 名前や容姿からおそらく通常のスライムを強化した魔物だと思う。


「マモル、ぶーちゃんのこと守ってあげて!」


 おそらくビッグスライムに突進して跳ね返されたのだろう。ぶーちゃんはエリアボスから少し離れたところでひっくり返っていた。図体がデカく起き上がるのに時間がかかりそうなので、その間マモルについてもらう。


「スラッシュ!!」


 俺は背中から剣を引き抜き武技を放つ。

 斬撃は真っ直ぐにビッグスライムへと飛来。そして直撃。体表に傷がつくも特に痛がる素振りはない。


「効いてないわけじゃ……ないよね。物理耐性は鈍器での攻撃や体術への耐性だし」


 スラッシュは斬撃なのでダメージを軽減するためには斬撃耐性が必要となるはず。

 

「闇魔法、ダークバレット!」


 会敵後、すぐに魔法陣を展開していた妻が魔法を放つ。漆黒の弾丸はビッグスライムのど真ん中を打ち抜こうとする。


「えっ!? 魔法も耐えちゃうの?」


 妻の魔法は目の前の巨大なスライムの体を中ほどまで削ったところで消滅した。そして少し時間が経つと、削られた部分が少しずつ埋められていく。


「再生するスキルを持ってるみたいだね」

「見た感じそれっぽいよね。どうしよう。私の魔法で1番威力の高いダークバレットでも倒せなかったよ?」

「再生には少し時間がいるみたいだし、全員で一気に高火力技を使ってみよう」


 作戦を決めているうちにエリアボスは完全に再生した。そして急に体をブルブルと震えさせたかと思ったら、大きく空へと跳び上がる。


 ――――ぶーちゃんを超える巨体が俺たちの頭上へと迫っていた。



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