第51話 経営地開発スタート

「ほら、さっさと歩きなさい。体力だけがあなたたちの取り柄でしょ」

「「「了解です! アネットの姉御!!!」」」


 俺が鉄の盾を買った日から時間は流れ、ついに経営地の開発が始まる。さっきアネットさんを先頭に、大工の方々が経営地へと到着した。総数10名。アネットさん以外はみんな背の低くてガタイの良いおじさんたちだ。種族はおそらくドワーフだと思われる。


「なんか……元気な人たちだね」


 アネットさんが檄を飛ばすと、他の大工さんたちは声を揃えて返事をする。その様子を見た妻が、若干引き気味に呟いた。


「そうだね。でも、あれくらいパワフルじゃないと炎天下での力仕事はできないんじゃない?」


 ドワーフNPCの特性とかかもしれないし、あの人たちがドMなのかもしれない。もしくはアネットさんに何か弱みを握られているとか。最後のは冗談としても、確証もなく失礼なことは言えないので無難な返事をする。


「そういうもの……なのかな?」

「たぶん?」


「お~い、かわいい坊やにダークエルフちゃん。待たせて悪かったわね。こいつらが歩くの遅いからくるのに時間がかかちゃって」


 アネットさんは蔑むような目を大工さんたちへ向ける。

 俺たちへの態度とは大違い。そこに差がある理由を聞いてみたいけど、また後でいいだろう。


「いえ、気にしないでください」

「あんたたちぼさっとしてないで挨拶くらいしなさいよ。先に言っておくけど、この子たちのこと……私、結構気に入ってるんだから、失礼なことしないようにね」


 ドワーフさんたちが妻の姿を見て、分かりやすく鼻の下を伸ばしてしたのでアネットさんから注意される。

 見惚れてしまうのもわかるよ。だってかわいいし綺麗だもんね、俺の妻。


「「「すみませんでした!!!」」」


「「「俺たちはファーレンで大工をやっている者です!!!」」」


「「「よろしくお願いします!!!」」」


 全員が野太い声を揃えて叫ぶので、耳が痛い。


「あはは……よろしくお願いします」


 隣にいる妻は苦笑いで返すのだった。


 挨拶が終わると、大工の皆さんはすぐに作業へと取りかかり始める。しかし、なぜかアネットさんだけが俺たちの方に残っていた。


「アネットさんは行かなくて大丈夫ですか?」

「まだ私の出番じゃないから。それと坊やたちにお願いがあって残ったの」

「俺たちにお願い、ですか?」

「そうよ。実は建築に使う木材を取ってきて欲しいの。もうちょっと開けた場所なら、ファーレンから持ち込めたんだけど……ここ、まともな道がないから」


 てっきり人数が足りないから手伝いをして欲しいとか言われるのかと思った。とんだ見当違いだったようだ。


「別にいいですけど、アイテムボックスに入れてきたらよくないですか?」

「はぁ……あのね、アイテムボックス持ちってかなり珍しいのよ」

「えっ、そうなんですか? 全く知りませんでした」

「私もー」

「ダークエルフちゃんはまぁ、そうでしょねって感じだけど……坊やも意外と世間知らずなのね」

「それどういう意味ですか!? 私のことおバカ扱いしないでください!!」


 アネットさんにからかわれた妻はぷんすか怒っている。まぁ、こういう怒り方のときは本気じゃないのでスルーさせてもらおう。


「まぁまぁ、落ち着いてリーナ」

「どうしてハイトはあっちの味方するの~……」

「味方をしているわけじゃなくて、早く話を進めようとしてるだけだよ」

「ほんとに仲が良いわね。羨ましいわ。それで話を戻るけど、アイテムボックス持ちは有用かつ希少。そんな人が田舎町で大工なんてやってると思う?」

「いえ。もっとお金を出してくれる仕事がくるでしょうし、そっちを選ぶと思います」


 行商人に同行してたくさんの商品を一度で運んだりするだけでも、結構お金もらえそうだし。お貴族様からもっと条件の良い仕事とかもきそうだよね。


「そういうこと。ねえ、もしかして……今までの受け答えの感じだと、あなたたちアイテムボックス持ち?」

「はい。俺たち……というか、来訪者はみんな持っていると思います」


 VRMMOでプレイヤーがアイテムボックスを使えない仕様だったら、それはなかなか鬼畜ゲーだと思う。


「へぇ~、あの噂は本当だったのね」

「噂ですか?」


 来訪者について何かしら噂が出回っているようだ。良い話だと嬉しいけど……どうなんだろう?


「あっ、いえ……こっちの話だから気にしないで」


 アネットさんは答えをはぐらかして、大工さんたちの方へ行ってしまった。


「ハ~イト! どうしたの、難しい顔して」

「アネットさんがどんな噂か教えてくれなかったから、内容が気になって」

「あー、たしかにちょっと気になるかも。でも、ごまかしたってことは答える気がないってことだし、気にするだけ時間の無駄だと思うよ? それより、言われた通り木材集めに行こうよ」

「わかった。でも、その前に木材の入手方法を聞かないとね」


 おそらくそれ用にまたスキルを取ることになるんだろうけど、念のため大工さんたちに確認した方がいいだろう。


「じゃあ、私が聞いてくるね! お~い、大工さんたちー!!!」


 うちの妻は、今日も元気が良いようだ。


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