第42話 情報屋

「確かに1000000Gお預かりしました。こちらは冒険者ギルドが責任を持って国の方へ納めますのでご安心ください」

「よろしくお願いします」


<アイザック一家がクラン経営地を獲得しました>


 ファーレンへと帰還した俺たちは冒険者ギルドにて、お金の受け渡しと経営地について詳しい説明をしてもらった。

 クランハウスなどを建ててくれる大工さんたちには話を通しておいてくれるので、ゲーム内時間で明日以降ならいつでも建築依頼を進められるらしい。携わってくれる大工さんの代表をするのはサインスさんという方で、連絡を取れるようにとその人の事務所に分かりやすく印をつけたファーレンの地図も冒険者ギルドの方が用意してくれた。居場所がわからなくて困るということもないだろう。


 とりあえず今日は疲れたので宿でログアウトしたいが、マモルとバガードを湖畔に置いてきたのでそういうわけにもいかない。クランハウスすらまだ建てていないが、あそこで野宿でもしよう。


「ハイト~、道具屋によってテントとか売ってないか見てみない?」

「そうだね。簡易セーフティーゾーンを作るアイテムとかは存在しそうだし、探してみようか」


 ――――ピロン。


「ん? 誰かからメッセージが届いた」

「イッテツさんじゃない?」

「たぶん」


 プレイヤーの知り合いは妻とイッテツさん以外、未だにいないからね! 


 …………ふむふむ、なるほど。


「なんて書いてあるの?」

「俺たちがクラン経営地を手に入れたことがワールドアナウンスされたらしい」

 

 今回のアナウンスではクラン名まではっきりと読み上げられたようだ。そのせいで情報屋が俺たちのことを探していると。イッテツさんは俺たちと知り合いだということが掲示板からバレているみたいで、情報屋の代表をしているシャムというプレイヤーからコンタクトがあったらしい。

 俺たちは自分たちの個人情報を伏せてもらうことを条件に他の情報を売る予定だったので、クラン経営地に関係する情報についても一緒に売ってはどうですか、という内容だった。

 もちろん嫌だったら、俺の方でどうにか追い返すので至急返信だけお願いします。ともあった。イッテツさんは相変わらず良い人だ。


「バレちゃったんならお金もらえる方がお得だし、イッテツさんの言う通り情報を売ってしまった方がいいんじゃない? 経営地は1クランにつき1つまでだから、隠しておくべき情報なんてないと思うし」

「俺もそう思う」


 情報を売る意思があることをイッテツさんへ返信するとすぐにまたメッセージが届いた。今からイッテツさんの武器屋にきて欲しいと。

 どうやらシャムというプレイヤーはイッテツさんの武器屋に凸しているらしい。


 ――――今日はまだ休めそうにない。


「イッテツさん、きましたよー」


 武器屋の扉をノックするとすぐに開かれた。


「ハイトおはようございます。お疲れのところ呼び出してほんとにすみません」

「いえいえ。俺のせいでいらぬ手間を取らせたみたいで、こちらこそすみません」


 俺たちが互いに頭を下げ合っていると、武器屋の奥から見知らぬ人物が現れた。


「あら、あなたたちがクラン、アイザック一家のプレイヤーかしら? 想像していた数倍カワイイ子たちね♡」


 …………。


 俺は思わず言葉を失った。

 目の前に立つ人物はスキンヘッドにサングラスと首から上はバリバリヤクザ系。なのに、服はフリフリのレースが施されたド派手ピンクのメイド服なのだ。

 想像していた数倍かわいいだのなんだの言われたが、そちらには反応できない。だって、そう言った人物の姿が俺の予想していた数十、いや数百倍化け物染みているからだ。


「黙り込んでどうしちゃったのかしら? あぁ、そういえばまだ名乗っていなかったわね。ワタシはフリフロ最大手情報屋クランのクランマスターをしているシャムよ。シャムちゃんって呼んでね♡」

「あっ、はい……よろしくお願いします。シャム…………さん」


 妻はなんとか言葉を絞り出した。偉い、偉過ぎる。

 俺もいつまでも黙っているわけにもいかない。目の前の人物を見るとなんとも言えぬ恐怖が湧き上がってくるが、ここはがんばろう。


「よろしくお願いします」


 シャムと名乗ったプレイヤーは俺たちの返事を聞いて満足したのか、サングラスをしていてもわかるくらいのクシャッとした笑顔になった。


「もうっ、2人そろって照れ屋さんなの? か~わいい。食べちゃいたいくらい♡」


 鳥肌が立った。

 誰か、助けてくれ。


 いつも頼りになるイッテツさんの方へ視線を向けるが、なんとこれまで味方をしてくれていた彼が素知らぬふりをしているではないか!

 ここにきて裏切るのか、我が友よ……。


「あ、あの。シャム……さんは、私たちから情報を買いたくてここへきたんですよね?」


 男たちがまともに動けないことを察した妻が、なんとか話を進めようとする。


「ええ、それがワタシの本業だからね。それでどこまで話てくれるのかしら? バラして欲しくないところは言ってくれれば、絶対にバラさないから安心してくださいな。これは情報屋としての矜持だから」

「わかりました。隠して欲しいことは私とハイトが情報源であるということです。私たちはこのゲームで従魔とのんびり遊んで暮らすことが目的なので、周りが騒がしくなるのは嫌なんです」

「クラン名まで読み上げられちゃったから完全に隠すのはちょっと難しいかもしれないけど、少なくとも私たちがあなたたちから情報を得たということは絶対にバラさないようにするわ。それに他のプレイヤーから情報目的での凸がこないように、うまいコトやってあげる。それでどう?」

「それで大丈夫です。では、早速話しますね。売りたい情報は2つあって――――」


 妻とシャムさんは真剣な表情で情報のやり取りを始めるのだった。 


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