第43話 強制ログアウト一歩手前

「ハイトさん、すみません。さっきは助け舟を出せなくて」

「いや、まぁ、あれは仕方ないですよ。知らんぷりされたときはマジかよって思いましたけど」


 妻とシャムさんが公開する情報と秘匿する情報。それから対価について話を詰めている一方、俺とイッテツさんは少し距離を置いたところで雑談を始めていた。


「ははは……これでもハイトさんたちがくるまではあの人の相手をがんばっていたので、流石にエネルギー切れしました」


 俺たちがここに到着するまでの間、シャムさんと2人っきりの状態で耐えていたんだもんな。そう考えたら、あそこで素知らぬふりをしたイッテツさんを責められない。


「あっ、そういえばハイトさんに伝えておかなきゃならないことがあったんだった」

「……なんですか?」


 急に真面目な顔になるイッテツさん。


「俺、この武器屋を辞めることにしたんです。これからは1人でやっていこうと思って」

「おぉ~、独り立ちですか。それはおめでたい! ちなみにどうして1人でやっていくことにしたんですか?」


 たしか初めて会ったときに金銭的に厳しいから複数人で武器屋を立ち上げたと言っていた気がする。独立するということは、もう1人でもやっていけるくらいのお金を貯められたということだろうか。


「実はハイトさんが頑丈な石をくれたときに、他の奴らが自分たちにも分けろって言ってきたんですよ。何かしら別の物と交換なら、僕も考えたんですけどタダでよこせって言われたんで断りました。それ以降揉めることも多くなって、お金が貯まったら自分の店を持とうと考えていたんです」


 イッテツさんは少し悲しそうな声色で答えた。


 マイナスな理由での独立だった。そんなこととは露知らず、おめでたいなどと言ってしまったのは迂闊だったな。


「そうだったんですか……聞かなかった方がよかったですよね? すみません」

「いやっ! 気にしないでください。自分1人で鍛冶師としてどこまでやれるかという挑戦ができるのは嬉しいことですから!!」


 表情は一転。

 キラキラした瞳でそう語るイッテツさんは心底楽しそうだ。本当に鍛冶が大好きなのだろう。


「なかなかカッコイイこと言いますね。だったら俺は応援しますから。欲しい素材とかがあれば言ってください」


 どんな素材だって揃えてみせる、とまでは流石に言えないけど。できる限り、フレンドとして協力してあげたい。


「ありがとうございます! 頼りにさせてもらいますね」

「任せてください。こちらこそ、新しい武器が欲しいときにはイッテツさんを頼らせてもらいますから」

「ええ、是非作らせてください!」


「2人とも~、私たちの方は終わったよ!」 


 妻とスキンヘッドメイドのシャムさんがこちらへと歩いてくる。どうやら話は小1時間ほどで纏まったらしい。


「おまたせ♡ 今日でリーナちゃんとは仲良くなれたし、ハイト君、イッテツ君とも仲良くなりたかったけど……これからやらなきゃならないことが山積みだから帰るわ。それじゃあ、みんなまたね♡」


 シャムさんはそう言い残して、武器屋を後にしたのだった。


「リーナさん……あの人と仲良くなれたんですか?」


 なんとも言えない表情でイッテツさんが妻を見る。


「たぶん、なれたと思いますよ?」

「すごいなリーナは。どんな人とでもすぐに仲良くなる」


 マーニャさんやガストンさんとだって、俺の知らないうちに仲を深めていたみたいだし。イッテツさん以外これといって仲が良いプレイヤーもNPCもいない俺とは大違いだ。


「最初は外見がちょっとって思って引いてたんだけど、実際話してみるといい人だったから。ハイトもイッテツさんもがんばって話してみなよ」

「……はい、がんばります」


 苦笑いしながらそう返すイッテツさん。


「えーっと、俺は…………」


 妻から視線を逸らしてごまかそうとしてみたが体ごと移動して目を合わせてくる。これは諦めるしかないか。


「善処します」

「うん、よろしい!」


 それから別れの挨拶をして武器屋を出たところで、連続ログイン時間が制限ギリギリになったため警告アラームが鳴った。結構音がうるさかったので慌てたものの、強制ログアウトまでゲーム内時間でまだ2時間くらいはあった。なので俺たちは急いで湖畔へと帰る。


「マモル、バガードただいま! 俺たちもう寝なきゃならないから、もうしばらくお前たちだけで遊んでてくれ。次、起きたときは全員で遊ぼう」


 カアァー。


 バガードは別にいいけど的な態度。マモルの方は今度遊んでもらえることが嬉しいらしく、尻尾を大きく左右に振っている。こういうとき素直で分かりやすい子はいいな。


「いいね、みんなで遊ぶの。久しぶりにマモルをスリスリしたい」

「それはほどほどにね? あんまりしつこくすると前みたいにマモルに嫌がられるよ」

「それはわかってるって! あっ、そうだ。すらっちもあの子たちのところに行っておいで? ハイトも言った通り、私たち寝ないといけないから」


 妻の言葉に従い、すらっちはマモルたちの方へ混ざって遊び始めた。


「あとは……経営地の設定をちょっとだけいじらないと」

「残り10分で強制ログアウトだから急いでね」


 経営地はいろいろとカスタマイズできるらしいが、今は時間がない。最低限、内部でのPK不可。そして陸地に魔物が侵入できないかつ湧かないようにだけ設定しておく。これでログアウト中に殺されることはないはずだ。


「よし、設定終わった!!」


 俺たちは連続ログイン時間制限にギリギリ引っかからず、現実へと戻ることができたのだった。


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