第39話 従魔の背中

 みんながご飯を済ませた頃には、2時間クラン外のプレイヤーを立ち入らせないという条件もクリアしていた。

 これで残りは、ギルドへの報告と国への献金だ。献金の方は冒険者ギルドを通して行うらしい。よって、俺と妻のどちらかがファーレンへ戻り、冒険者ギルドへ報告しなければならない。2人で戻ってもいいけど、その間にここで何かが起こったら困るので、どちらかは残っていた方がいいだろう。


「どっちが行く? リーナが好きな方を選んでいいよ」

「私は待っていたいかな。ここの景色見てるとたまには風景画でも描きたいなーって気分になってきて」


 どうやらこの湖畔から何かしらのインスピレーションを受けたらしい。休みの日にしているゲーム内でまで絵を描きたいだなんて、本当に妻は絵を描くのが好きなんだなぁ。

 ちなみに画材は普通にNPCの道具屋で売っているらしく、俺の知らぬ間に購入していた。もちろん妻は自分の所持金を使っているので文句を言うつもりはない。


「わかった。じゃあ、俺が行ってくるね。できるだけ急いで帰ってくるから」


 妻とすらっちだけを湖畔に残して俺たちは山へと戻る。まともな道などない夜の山。普通のプレイヤーなら間違いなく迷ってしまうであろう場所で俺たちは間違うことなくファーレンの方角へと進む。頼れる従魔、バガードという最高の道案内がいる俺たちは幸運である。


 山を下りれば、次はペックの森。


「どうした、マモル」


 突然、マモルが止まったので何かあったのかと思い、問いかける。


 …………え、乗れって?


 マモルから背中に乗せて移動した方がいいという気持ちが伝わってきた。アバターの体重がリアルとリンクしていたとしたら、61kgでそこに皮の装備一式の重量が加わるから最低でも80kgくらいはあると思うんだが、いけるのだろうか。


「皮とはいえ、鎧も着てるぞ?」


 俺がそう言っても止まったまま動かない。どうやらマモルは本当に俺を乗せて移動するつもりのようだ。

 まぁ、本人がいけるって思うんだったら信じるか。


「ありがとな、マモル」


 そう一言感謝を述べてからゴツゴツした骨の背中へとまたがる。




 ――――はっや!!!


 背に乗るや否や、マモルは全力で森を駆ける。俺は予想以上の速さと顔に受ける風の強さに驚く。若干ビビッたが、なんとか悲鳴を上げずに済んだ。


 骨の狼が皮の鎧を着た軽戦士を乗せて、木々の隙間を縫って駆ける。なんともファンタジーっぽい場面だ。こういうのゲームのPVでよくあるよね。


 あっという間にペックの森を踏破したマモルはファーレンの入り口付近で俺を降ろした。

 そこから俺は自分の足で町に入り、マモルを横に連れて冒険者ギルドへ向かった。


「すみません、マーニャさん。夜中に2度も訪れてしまって」

「いえ、さっきも言いましたけど冒険者ギルドは日夜問わず、動いていますから気にする必要はありませんよ」


 ギルドに入って真っ直ぐカウンターへと進み、顔見知りの職員へと声をかけた。クラン設立にきたときはまだ他の冒険者たちも依頼の納品やらなんやらで結構な数残っていたが、今は少ししかいない。なので、本当に申し訳ないなと思い言葉にしたが、また大丈夫と言わせてしまった。考えてみれば俺以外のプレイヤーが夜中にギルドへくることもあるだろうし、本当に気にしなくていいのかもしれないな。ちなみにNPCの冒険者も数名残っているが、これらは飲んだくれて雑魚寝している人たちなので見て見ぬ振りをしておく。


「それでどういったご用件で?」

「実はクラン経営地としたい土地がありまして」

「……その、ハイトさん。経営地を手に入れるための条件はご存知でしょうか? とても厳しい条件ばかりが挙げられており、そう簡単にクリアできるものでは――――」

「もちろん、知っています。未達成の条件はギルドへの報告と国への献金だけだったのでここへきました」

 

 気まずそうな表情でクラン経営地について説明しようとするマーニャさんの言葉を遮って返事をする。説明聞いてたら長くなりそうだし、クリアしているから聞く必要もないからね。


「そ、そうでしたか。わかりました。では、実際に条件が満たされているのか確認をしたいので私たちをその場所へ案内して頂けますか? 経営地の確認には3名の職員が向かうことになっているので、そこはご了承ください」

「はい、大丈夫です」

「では、連れて行く職員を選んできますので少々お待ちください」


 マーニャさんは大慌てでカウンターの奥へと消えた。そこへ入れ替わるように見知ったおっさんが声をかけてきた。


「よう、兄ちゃん。お前さんおもしれえことしてるみたいだな」

「ガストンさん、こんばんは。おもしろいかはわかりませんけど、珍しいことではあるみたいですね。マーニャさんの反応的に」


 さっきまでガストンさんの姿はギルド内になかったと思うのだが、どこから現れたのだろうか。


「自分がやってることを理解してねーのか? そもそも経営地を持つってのは疑似的にだが、国のお貴族様みたいに村や町を作って治めるってことだぞ。もちろん誰にでもそんなことさせるわけにはいかねーから、条件もかなり難しくなってる。それを新米の冒険者が成し遂げたんだからマーニャが驚くのもムリねえよ」


 NPCの間では経営地を持つことは結構難しいことだと認識されているみたいだ。


「俺たちはただ従魔たちとくつろいで暮らせる土地が欲しいだけなので、そんなに滅茶苦茶開発したりはしないですけどね」


 あの美しい湖畔の景色を壊すようなことはしたくない。


「ほーん。ドカーンっと1発当てたくてやるとかそういうのじゃないのか。あんまり冒険者らしくはないが……やりたいようにするのが1番だしな。精々、がんばれよ」


「お待たせしました――――ってガストンさんいいところに」


 カウンターの奥からマーニャさんが戻ってきた。知り合いじゃない職員もその後ろに2人ついてきた。


「おう、マーニャ。この兄ちゃんがおもしれえことするらしいからちょっと話してたんだ」

「そうでしたか。丁度、今からその件で町の外へ出るので護衛依頼受けてもらえます? 私含めた職員は全員戦えないので、ハイトさん1人では守るのは厳しいでしょうから」

「従魔の骨狼がいれば十分だと思うが、まぁいいぜ。ただ、さっきまで飲んでたから酒臭いのは許してくれよ」


 さっきまで飲んでたって……ガストンさんももしかして雑魚寝している残念な冒険者の中に混ざっていたのか?


「というわけだ、兄ちゃん。今からこいつらの護衛として、おめえの経営地候補へ一緒に行く。よろしくな」

「あっ、はい。よろしくお願いします」


 話がまとまったので、俺たちはすぐにファーレンを出た。


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