番外編その1 ギルの苛立ち


<エリアボス、レッサーコングキングが初討伐されました>


「おっ、元不人気フィールドもついにエリアボスが倒されたみたいっすね」

「そうだな……」

「どうしたんすか、ギルの兄貴。急に機嫌悪くなって」

「別に怒ってねーよ」

「いや、怒ってるとまでは言ってないっすけどねー」


 俺はVRMMO<フリーフロンティアオンライン>で攻略最前線にいるプレイヤーのうちの1人、ギルだ。これまでにファーレンを囲う4つのフィールドのうちの穏やかな草原、ボップ墓地、ファス平原、更にその先のデュルジュの沼地のエリアボス初討伐という成果を上げ、ワールドアナウンスを流してきた。

 もちろんパーティーは組んでいるし、他の攻略最前線のパーティーと協力などしてきたからこその成果だが、俺の関わらないところでワールドアナウンスが流れるようなイベントはこれまでほとんど起こったことがなかった。


 しかし、昨日のユニークボス討伐のワールドアナウンス。それに今流れたエリアボスの初討伐には一切関わっていない。俺のパーティー以外の攻略組の者たちもほとんどが最前線から離れていないとなると……これらのワールドアナウンスを流した奴は俺の知らない強者。もしくはただ運が良いだけの野郎のどちらかだ。

 初めてユニークボスを討伐するという偉業を成し遂げたのがまだ見ぬ強者だったなら、悔しさこそ感じるが納得できる。ただ、それを行ったのが運だけのエンジョイプレイヤーだった場合は流石に我慢ならん。ゲームなのだから楽しむのは構わない。だが、膨大な時間と努力をつぎ込み攻略のトップを走るプレイヤーが本来得るはずだった報酬を運だけで搔っ攫っていくなど許せるはずがないだろ。


「ちょっとギルの兄貴! 自分の世界に入らないでくださいよ。もうすぐ次の村に着くんですから、ここで気を抜いて魔物にやられたら他のパーティーに笑われますよ」

「ん? あぁ、悪い」

「ほんとにわかってます? はぁ……。それにしても誰がやったんすかね。ペックの森のエリアボス」

「さぁ? ただ近いうちに確かめなきゃならねーな。エリアボスの方はまだいいが、ユニークボスを倒したやつは絶対に」


 そう確認する必要がある。件の人物が俺を納得させる者か否かを。

 方法は簡単だ。決闘システムを用いてアイテムや装備を賭けてのタイマンをすれば良い。俺に勝つようなら、ユニークボスの討伐報酬をそのまま持っていてもらって構わない。これまでに俺が手に入れたレアなアイテムや装備もいくつか譲ろう。しかし、逆だった場合は全て没収してやる。運だけの奴には過ぎた報酬ばかりだろうからな。


「えぇ、まさか掲示板で言ってたこと本気でやるんすか!? アリセナさんに止められたからてっきり諦めたのかと思ってたのに……」


 確かにアリセナのやつに掲示板で咎められたが、そんなことは関係ない。あいつとはリアルでの腐れ縁がゲーム内までもつれ込んだだけだ。フリフロ内での実力じゃ俺の方が上だから、止めにきたところで押し通ればいい。むしろあの女は俺のアバターを見たときに爆笑しやがった罪もあるし、ボコすべきだな。

 他のプレイヤーだって髪や瞳の色を変えているのに、どうして俺が白髪赤目にしたら中二病だなんだとバカにされなきゃいけなかったんだよ。あー、ダメだ。あのときのことを思い出すのは良くない。余計にイライラする。


「チッ……運営から警告を受けたならともかく他のプレイヤーに俺のやることを止められるかよ。それともなんだ? お前は俺がユニークボスを倒したやつに決闘で負けるかもとか心配でもしてるのか?」

「ギルの兄貴が負ける心配なんてしてないっすよ。俺が言いたいのは無理矢理決闘をさせた挙句、ボロ勝ちしてアイテム剥ぐのはちょっと……てことで」

「システム利用してんだから何も問題ねーよ。お前はんなことより村についてからの攻略スケジュールでも考えてろ」

「うっす。すいませんでしたー」

「わかったならいい。まぁ、安心しろ。しばらく俺たちはファス平原から王都へ向かうフィールドの攻略に力を入れるんだ。標的を見つけるのはそれがひと段落してからだから、しばらく先になるからよ」


 ユニークボスを倒した奴は必ず見つけ出して決闘する。だが、優先順位を間違える気はない。あくまでも俺は攻略組。最短で強くなり、最速でゲームを攻略することこそが目的なんだから。


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