第28話 忘れていた約束
<ペックの森エリアボス、プレイヤー初討伐報酬>
8000G
ランダムアイテムチケット×3
「初討伐報酬……けっこうショボい」
アナウンスを聞いた妻が微妙な表情でぼそりと呟いた。
「怨嗟の大将兎を倒した報酬と比べるとどうしてもね」
たしかに、初討伐でもらえるのってこの程度なんだ……と一瞬思ってしまったのは事実だが、ある程度は予想していたので悲しみはそれほど大きくはない。
「まぁ、いいんじゃない? 俺たちの目的はペックの森の先にあるフィールドに行くことだし。おまけで物もらえたと思っておけば」
それに解体して手に入る素材はきっとエリアボス特有のものだろうから、レア度はそこそこ高いはず。
レッサーコングキングの歯
レア度:2 品質:低
エリアボス、レッサーコングキングの歯。草食の魔物であるため、ボスかそうでないかで歯の頑丈さが変わることはない。ただ、通常のレッサーコングと比べると体格差もあるためサイズは大きくなっている。
大きな石
レア度:1 品質:低
拳大の石。投擲に用いることが主な使用用途。
レッサーコングキングの背皮
レア度:2 品質:低
エリアボス、レッサーコングキングの背を覆っていた皮。他の部位の皮と比べて少し分厚い。
「大きめの石と歯か。この2つ錬金術に使えないか後で試したいな。レッサーコングキングの背皮も新しい防具に使えそうだし……解体で手に入ったアイテムはけっこう当たりか」
錬金術を用いて石と歯で頑丈な石が作成できるのなら、それぞれの上位互換らしき素材なら何ができるのか。かなり気になる。
「ファーレンに帰ったらレッサーコングキングの背皮を使って、ハイトの防具を作ってもらおうよ。私は後衛だし、速さもけっこうあるから防具の優先順位は低いでしょ?」
「そう言ってくれるなら、お言葉に甘えるね」
俺の耐久が上がるとパーティーの安定感が増す。妻からも勧められたことだし、イッテツさんに例の防具屋さんを紹介してもらって新たな鎧でも作成してもらおう。
…………ん?
イッテツさん、イッテツさん……何か忘れているような。
あ!!!
今日、情報屋へ案内してもらう約束してた!?
ヤバい、完全に忘れてしまっていた。時間は決めてないからまだ大丈夫だと思うけど、急いで連絡しなきゃ。
「ごめん、ちょっとだけ時間頂戴!」
「え、うん。いいけど、どうしたの?」
「ひと段落したら、話すからちょっと待って」
えーとフレンドメニューを開いて、イッテツさんを選んで、さも忘れていなかったかのようなメッセージを……いや、正直に忘れていてフィールドに出てしまったことも書いた方がいいよな――――――。
「ごめん、とりあえず大丈夫だよ」
「別に私は気にしてないけど、もしかして何かやらかしちゃった?」
「やらかしたというか、なんというか――――」
さっき思い出した約束の話を一通り妻に説明した。
「へ~。ちゃんとしたやらかしだね、それは。ハイトにしては珍しい」
「ははは……クラン周りのアプデ情報を知って舞い上がってたみたいだ」
痛恨のミス。危うく仲良くなったゲーム仲間からの信用を失うところだった。
「ちょっと子供みたい。そうだ、よしよししてあげよっか?」
妻はニタニタしながら、頭に手を伸ばそうとする。
「やめてくれよ。流石に24で、子供扱いはきついって」
どんな罰ゲームなんだよ。そういうプレイが好きな奴なら喜ぶだろうが、俺はノーマルだからお断りだ。
「えぇー、ケチ」
「どうしてそうなるの」
――――ピロン
「あ、メッセージが届いた。たぶんイッテツさんからの返事だ」
メッセージを開くと、予想もしていなかった返事がきていた。なんでもイッテツさんは休日出勤させられることになったらしく、帰ってくるのが日の変わる1時間ほど前になるとか。それでもアプデ開始までゲーム内時間では4時間もあるが、俺たちの方も別のことをしているのなら、後日にしませんか。とのことらしい。
仕事から帰ってきて、俺たちのためにゲームへ即ログインさせるというのも気が引ける。ここはイッテツさんの提案に乗ろうと思う。
「なんて言ってるの?」
「イッテツさんは休日出勤らしくて、できたら後日にしませんかって。忙しそうだし、後日でいいですよって答えておいた」
「なるほど。イッテツさんも大変だね、休みの日に会社に行かなきゃならないなんて」
「そうだね、労いとして今度ゲーム内で美味しいものでも奢ってあげようかな」
俺のお気に入りのフライドラビットか、それか今度一緒に食べ歩きして新たな美食を開拓するのもありだな。もしくは料理スキル持ちの妻の料理か。
「うんうん、そうしてあげて。でも、今日の約束がなくなったおかげでこのまま先へ進めるようになったね」
「だね。じゃあ、早速行こうか」
基本的に新たなフィールドへ行くには、その前のフィールドボスを倒さなければならない。レッサーコングキングを初めて討伐したプレイヤーは俺たち。つまり、この先はプレイヤーにとって未知の領域だ。
鬼が出るか蛇が出るか。ワクワクして仕方ない。
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