第27話 ペックの森のエリアボス
高低差のある木々を器用に飛び回りながら巨大なレッサーコングが近づいてきた。体色は普通のレッサーコングより深い緑で黒に近い。
レッサーコングキング(エリアボス)
ペックの森で暮らすレッサーコングたちの王。レッサーコングと同じく、普段は自分から戦闘を仕掛けることはない。しかし、無断で森を横断して山へ向かおうとする者には容赦しない。
王様なのにレッサーってついたままなのか……威厳に欠ける。おそらくレッサーコングの王であって他の猿やゴリラの王ではありませんよってことなのかな?
「可哀想な種族名だね」
「やっぱり? 俺も言葉にはしなかったけど、そう思ってた」
――――ギイイィイイイイッ
俺たちの憐みを含む視線が気に障ったのか、レッサーコングキングは木から俺たちの元へと尻を向けて跳んでくる。
「これ前にもなかったっけ?」
「レッサーコングのときも似たような感じだったね」
俺がレッサーコングを地面へ下ろすために木を蹴っているところを見た妻が、昆虫みたいな見つけ方だね、なんて言ったからキレられたような気がする。
つまり今回も前回も妻が思ったことをそのまま口にしたから相手が怒っているのである。
「もう少し猿にも気を遣ってあげたらどうかな?」
こちらへ落下しているレッサーコングキングが僅かに表情を変化される。どうやら妻が良い返答をするのに期待しているらしい。
「嫌だよ。かわいくないもん」
だそうです、レッサーコングキングさん。
俺も優しくするつもりはないので、別の人を当たってください。
見事に期待を裏切られたお猿さんは、瞳の端に涙を浮かべている。
「表情とやってることがぐちゃぐちゃでややこしい奴だなぁ。泣くのか、攻撃するのかどちらかにしてよ……」
「ほんとにね。流石にお尻で潰されるのは嫌だから、すらっちお願い!」
本日、とても張り切っているすらっち。妻の命令を聞いて、すぐさま行動に移る。ブルンブルンと体を揺らし、全力で敵へと跳んでいく。
「真向勝負か。流石に分が悪いんじゃ……」
怨嗟の大将兎戦ではマモルと敵の間に挟まれることで緩衝材となることができた。しかし、今回は後ろで支えてくれるものがない。基礎ステータスの低いスライム自身の生み出す推進力では、流石にエリアボスのケツストンプ攻撃を跳ね返すには至らないだろう。
「大丈夫だよ」
妻がそう言うとほぼ同時にすらっちとレッサーコングキングがぶつかる。案の定、ステータスで負けているすらっちの方が跳ね返された。
「ほら、私たちは潰されなかったでしょ?」
勢いをかなり殺された敵は、仕方なく地面へと着地していた。
「なるほど。本当に俺たちへ攻撃が当たらないようにするためだけの行動だったんだ」
「正解。そしてここからが反撃!」
妻の前方に紫の魔法陣が展開する。
「闇魔法?」
「うん! ハイトにはまだどんな魔法か教えてなかったから、実践で見せようかなーって」
「だったら、時間稼ぎをしてくるね」
俺はいつも通り、敵の注意を引くために前に出る。
今は盾なしなので、防御にも武器を使うことになる。しかし、これまでの経験からそうすると武器の耐久値が落ちやすい気がするので、ここは攻めさせてもらう。
何度も繰り返し使うことで体に馴染んできた剣術(初級)による補正を受けた動き。俺はいつも通り剣を振り上げて大猿へと振り下ろす。
少し距離があったので、それを詰めている間に相手は防御態勢を取った。頭を守るように出された前腕を頑丈な石の剣がぶっ叩く。
腕ごと頭を叩いてやるつもりだったが、流石にできなかった。前腕で攻撃を受け止めたレッサーコングキングは大きく後ろへ跳躍する。
ノーダメージなら退く必要はない。一旦、距離を取ったということは俺の攻撃でダメージがあったと見て良さそうだ。
再び攻撃を仕掛けるべく距離を詰める。それをさせまいとレッサーコングキングはどこから取り出したのかわからない10cm大の石をこちらへ投擲してきた。
1発目は進行方向を少し左に寄せることで難なく躱す。次に飛んできた石を避けるために進行方向を変えるのは間に合わない。咄嗟に足を止めて、その場でしゃがむことで事なきを得る。しかし、そこへ立て続けに2つの石を追加で投げつけられた。
「どんだけ持ってんの!!」
これは躱せないと思った俺は頑丈な石の剣ではたき落とそうと構える。真正面から見ると思った以上に速度がある。
なんとか反応して2つのうちの片方を剣で左へ弾いた。
「2つ目はムリ」
こんな豪速球に2回も反応できるか!
諦めて体で受ける覚悟をするが、それが現実になることはなかった。
頼りになる妻の従魔、すらっちが溶解液を飛ばして石を溶かしたのである。
「助かった、ありがとう!」
すらっちへ礼を言いながら、俺は再び足を動かす。レッサーコングキングは接近されたくないのか、また石を投げつけてくる。しかし、投擲術(初級)の補助を受けた溶解液が見事にそれらを撃ち落とす。
彼我の距離が縮まり、相手を俺の間合いに捉えた。走っていた勢いをそのまま剣に乗せ、斜めに振るう。
相手が咄嗟に出した両の腕がそれを受け止める。
――――まだ終わりじゃない。
俺は防御の上から無理矢理押し切ろうとせず、剣を引いた。その代わりに相手が次の行動へ移る前に追撃をする。
1発目より勢いはない。しかし、確実にダメージを与えられるであろう一撃が大猿の脇腹へと見舞われた。
「いけ! ダークバレット」
そこへ妻が放った闇の弾丸が飛来し、レッサーコングキングの頭部へと直撃。すらっちも溶解液を追加で飛ばして追い撃ちをかける。
<エリアボス、レッサーコングキングを初討伐しました>
<剣術(初級)の熟練度が規定値に達しました。武技スラッシュを習得>
戦闘が終わると同時に、待ちわびていた剣術(初級)の熟練度上昇による武技習得が知らされたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます