第15話 再戦に向けて(2)

「ハイト~、おまたせ!」


 俺が汗をだらだらと流しながら、石ころとレッサーコングの歯を錬金の釜を使って頑丈な石へ変えようとしているところへ妻がログインしてきた。その声で俺の集中が僅かに乱れる。


「あっ」


 次の瞬間、錬金の釜から大きな爆発音が鳴り響いた。

 錬金術失敗である。この場合、素材は全損。


「び、びっくりしたぁ……もしかして声かけない方がよかった?」


 妻はとても申し訳なさそうに錬金の釜と俺の間で視線を行き来させていた。


「素材は大したものを使ってないから問題ないよ」


 レッサーコングの歯がドロップ品の場合、なぜか1体で32本も手に入るから素材が不足するなんてことはそうそうない。それに石ころの方もなくなったら、また町中で拾えばいいだけだしね。


「でも、ごめんね?」

「いいよ。それよりリーナは水魔法の熟練度が上がって新しく使える魔法が増えたんだったよね?」

「そうだよ。クリエイトウォーターっていう水を生み出すだけの魔法だけどね」


 どういうわけか、戦闘時間が長いはずの俺の剣術(初級)は未だに熟練度が上がったというアナウンスを受けていないのに、妻の水魔法はもう熟練度が上がったらしい。

 魔法スキルと武器スキルの違いもあるのかもしれないが、なんかこう……ちょっと悔しい。


「実は下級ポーションの作成に水が必要で、それに井戸で汲んだ水と魔法で生み出した水を使ったとき違いはあるのか調べたいんだ」

「そういうことなら任せて! MPの続く限り水を出すから」


 妻が隣で宿の部屋にあった適当な容器に魔法で生み出した水を注ぎ始めた。俺もそろそろ錬金術を再開しますか。


 最初に錬金の釜へ素材となる薬草と井戸の水を入れる。そしてMPを消費して魔力を流す。錬金術のスキルのおかげか、なんとなくどういう風にすればいいのかわかるのだが……これが真っ暗闇の中で僅かな光で照らされた平均台の上を歩くような、とてつもない集中力を要する作業なのでさっきみたいに声をかけられると失敗してしまう。

 今回は妻自身も作業をしているので声はかからない。汗を流しながら、錬金の釜へ魔力を流すこと5分。ようやく作業が終わりを迎えた。


「……できた」




低級ポーション

レア度:1 品質:低

使用者のHPを最大HPの10%回復させる薬品。味は苦いので子供には不人気。




「青汁みたいな色だね」

「説明に苦いって書いてあるし、強ち間違いじゃないかもね」

「えっ、飲みたくないなぁ」

「ダメージを受けなければ飲む必要ないよ」


 前衛を担当している以上、俺は何度もお世話になりそうだ。


「……がんばります」


 この後、水魔法のクリエイトウォーターによって生み出された水を使って低級ポーションを作成したが内容は井戸の水を使ったものと変わらなかった。


 ――――そこから更に3時間が経過して、俺の生み出したアイテムは頑丈な石と低級ポーション合わせて100近くなっていた。


<見習い錬金術師のレベルが1あがりました。SPを2獲得>

<規定条件を満たしたため新たなスキルがスキルリストへ追加されました>


 錬金術を始めてから4度目のアナウンスが聞こえた。キリがいいのでそろそろ終わりにしようか。連続ログイン時間の制限にも引っかかりそうだしね。


「最後にステータスの確認をするか」




ハイト・アイザック(ヒューム)

メイン:見習いテイマー  Lv.6

サブ1:見習い錬金術師  Lv.5

サブ2:見習い戦士    Lv.2

HP:120/120 MP:10/180

力:14(+11)

耐:15(+3)

魔:25

速:15

運:21

スキル:テイム、錬金術、剣術(初級)、気配察知、鑑定、解体

称号:<ラビットキラー>

SP:12




 見習い錬金術師のレベルがかなり上がったおかげでSPに余裕が出てきた。それにしても魔力とMPがかなり伸びたな。錬金術師は魔法系の生産職に分類されるらしい。見習いテイマーのレベルアップでも魔力が伸びてきたことを考えると、前衛のビルドとしてはあまり良くなさそうだ。ゲームの攻略メインに遊んでいる人たちなら後悔しそうだが、俺は好きにやった結果なので気にしない。ただ、妻ほどではないにしろ、耐久が低い問題は解決した方がいいだろう。次ログインした際には今日作ったアイテムを売って防具を買わないとね。


 ついでに取得可能なスキルリストも確認する。SPを使うのは後にしようと思っていたが、新しいスキルがリストに追加されました、なんてアナウンスされたら気になってしまった。


「……水魔法と火魔法か」


 水魔法は今のところいらないだろう。妻が持っているスキルだし、2人とも使えるようにしたところで利点があるようには思えない。

 火魔法は……う~ん、どうだろう。見習い錬金術師のおかげである程度魔法攻撃でもダメージを入れられそうではあるけど。魔法攻撃は魔法陣が展開されてから発動するから近距離だと扱いづらそうなんだよね。

 それに前々から気になっていたSP10も消費して取得できる身体強化にSPを回したいっていう気持ちもあるし…………。


 まぁ、いいや。スキルの方は一旦、保留で。次、ログインしたときまで決めておくとしよう。


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