第14話 再戦に向けて(1)

「負けたのか……」


 気がつくと俺は宿の借りていたベッドで横になっていた。


 マモルを助けるために怨嗟の大将兎へ攻撃を仕掛けた結果、カウンターをくらった。俺の耐久力では奴の攻撃を受け切れず、ファーレンの宿へと死に戻ってしまったらしい。


 ベッドから体を起こすとマモルは心配してくれているのか、頭を俺に擦りつけてくる。大丈夫だよ、と頭を撫でて返事をする。


 俺たちプレイヤーは死んでも蘇るから。目の前で亡くなったあの狼の獣人と違って……。


「ごめんな、マモル。敗因は相手のことを甘く見ていた俺だ」


 実際、俺が一撃でやられたから死に戻ったわけだし。


 奴の鑑定内容からして、称号<ラビットキラー>を持っている限り俺は狙われ続けるだろう。穏やかな草原以外のフィールドにまではこないだろうが、あそこで一角兎を狩れないとフライドラビットの材料である兎肉が手に入らない。妻が料理するのを楽しみにしているのでそれは困る。だからあのユニークボスは絶対に倒す。


「負けっぱなしは嫌だしね」


 とはいえ、彼我の差を気持ちや根性論でどうにかできるわけがない。まずは対策と考えるところから始めなければならない。

 今回分かったのはステータスの差が大き過ぎるとまず戦いにならないということだ。俺自身の剣を扱う技術やスキルの熟練度を上げることでもある程度対抗できそうだが、1番手っ取り早いのが、レベルアップしてステータスの底上げを計ることだ。

 SPがスキル取得だけでなくステータスにも振れるようになっているのはそのためだと思う。


 しかし、さっき死んでしまったせいでデスペナルティが発生中。全てのステータス値が半減状態になっている。流石にこのままレベル上げのためにレッサーコングに挑んだりするのは厳しいだろう。マモルの方は元のステータスが高いので半減していてもある程度戦えるとは思うが、足手まといを庇いながらの戦いは流石に無理だ。


 よって今できるのは見習い錬金術師のレベル上げくらい。生産職でもレベルさえ上がればステータスは上昇するので意味はある。むしろ見習い錬金術師としてのレベルは未だに1なので戦闘で見習いテイマーや見習い戦士のレベルを上げるより効率が良いだろう。


 ついでに錬金術で作成したアイテムを売って防具代を稼ぐこともできる。怨嗟の大将兎に一撃で倒されない程度の耐久力は最低限手に入れたいので、ある程度売り上げなければならないが。

 俺の場合、イッテツさんたちみたいに店を持っていないので生み出した物は生産ギルドで買い取ってもらうことになるだろう。


 やることも決まったので、早速作業に取りかかる。


 最初に見習い錬金本を開いて手元にある素材、もしくは安価で手に入る素材でできる物を探す。




・低級ポーション

 薬草+水


・頑丈な石

 石ころ+レッサーコングの歯




 これくらいか。

 低級ポーションは効果の低い回復薬。薬草はスキルの採取を持っていればフィールドで入手できるもので、冒険者ギルドで納品依頼が出ていた。俺はスキルを取っていないので受注しなかったが。

 頑丈な石は現状最も武器に加工されている素材だ。普通の石から加工した武器は銅の武器に劣るが、錬金術で生み出した頑丈な石を加工すると攻撃力はさほど変わらないが銅より頑丈な武器ができるらしい。2日ほど前に他の見習い錬金術師と鍛冶師がこのことに気づいたらしい。大量にアイテムボックスに入っているレッサーコングの歯の使い道が見つかって俺はとても嬉しい。


「水は宿の井戸から汲んでいいみたいだし、足りない素材は薬草くらいか」


 石ころに関してはフィールドでも町中で足元に時々転がっているので拾えば問題ない。薬草を買いにいくついでに済ませればいいだろう。


「マモル、生産ギルドで必要な物を買ってくるから待っててくれるか?」


 いつものように尻尾を振って返事をしたので、俺は1人で宿を出た。



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