第13話 怨嗟の洗礼
狼の獣人が残した言葉を元に考えると俺はあいつと同じく何かを大量に狩ったゆえに謎の化け物に狙われているらしい。
俺がこれまでに狩った魔物は一角兎とレッサーコングの2種だけ。どちらからより恨みを買っているかといえば、一角兎の方だろう。ご丁寧に求めてもいない<ラビットキラー>なる称号まで与えられているのだから。
妻が明日にはログインできるようなので、それまでファーレン内で大人しくしてフルメンバーで挑むのが正解だとは思う。でも、久しぶりに狩りに出ようとマモルと約束してしまったので穏やかな草原へ向かうつもりだ。もし全く太刀打ちできないような相手なら戦うことは諦めて逃げるという選択もあると、頭に隅には入れておく。
「マモル、今日はヤバい敵がくるかもしれない。そのときは俺のことは気にせず本気で戦ってくれ」
マモルはいつものように元気よく尻尾を振り返事をした。
ハイト・アイザック(ヒューム)
メイン:見習いテイマー Lv.6
サブ1:見習い錬金術師 Lv.1
サブ2:見習い戦士 Lv.2
HP:120/120 MP:100/100
力:14(+11)
耐:15(+3)
魔:17
速:15
運:17
スキル:テイム、錬金術、剣術(初級)、気配察知←new、鑑定←new、解体←new
称号:<ラビットキラー>
SP:4
<装備>
頭:なし
胴:来訪者の服
脚:来訪者のズボン
靴:来訪者の靴
装飾品:―
武器:銅の剣
マモル(骨狼)
Lv.4
HP:190/190 MP:75/75
力:39
耐:16
魔:21
速:48
運:13
スキル:骨の牙、気配察知、暗視
称号:<闇の住人>
ステータスを開き、俺たちのHPMPが満タンであることを確認する。
「問題なしと。よし、行くか」
――――夜の帳に包まれた穏やかな草原。
本来は足元に生い茂る草々に紛れて愛らしい1本の角を生やした白兎が生息しているはずだが、今日はいない。それどころか俺とマモルの気配察知には生き物1匹たりとも引っかからないにも関わらず、辺り一帯には不穏な空気が漂っている。
あなたたちはこれから襲撃されますよと予告をされているような気分になる。
「マモル気をつけろよ。いつ仕掛けてくるかわからな――――」
そう言い切る前に気配察知の範囲内にとてつもない速度で移動する魔物が入り込んだ。そいつが放つ強大な気配を受けて体が反射的にそちらへと向いた。
既にマモルは駆け出している。これまで見せてこなかった従魔の本気は、俺の想像を軽く超えていた。
反射速度からして俺とは桁違い。その上、密度の高い骨でできた4つ足から生み出される移動速度は、こちらに迫る化け物に勝るとも劣らない。
見える!
距離が詰まったおかげでなんとか敵の姿を捉えられた。漆黒の毛を全身に生やした3m近い巨体の二足歩行兎。それはどういうわけか全身を禍々しい赤のオーラで覆っている。
マモルが迎撃しているうちに俺は相手の正体を把握すべく鑑定をかけた。
怨嗟の大将兎 (ユニークボス)
エリアボスであり穏やかな草原に出現する兎系魔物の頭である大将兎が、多くの仲間の死を経て怨嗟に囚われた末路。兎族を多く狩ったことを称号として掲げる憎き存在を殴殺する。通常の大将兎は特定の場所に居座るが、ユニークボスと化した黒兎は穏やかな草原全域を跳び回り標的のみを襲う。
あのユニークボスってなんですか?
よくあるユニークモンスターならわかるよ。突然変異で生まれたりする強い個体のことでしょ。でも、それのボスってどういうこと……ボスの癖に変異したりするのってありなの?
俺がしょうもないことを考えている間に怨嗟の大将兎とマモルの距離がゼロになる。
「マモル!?」
真正面から2体の魔物がぶつかり合った結果、力負けしたマモルが後方へ吹き飛ばされた。
一方、余裕を持って着地した巨体の黒兎は追撃に出ようと丸太のような両足に力を溜めている。
マモルの耐久力は俺と同程度。無防備な状態であんな巨体の攻撃を受ければ致命傷となるだろう。
「やらせるか!!」
一瞬でも気を引くためにあえて大きな声をあげながら敵へ迫る。
先に仕掛けたので、こちらに分があるはずだ。防御態勢を取られる前に攻撃するべく俺は銅の剣を脳天へと振り下ろす。
――――鈍い音がした。折れた銅の刃が視界の端で舞う。
そして何が起こったのか把握する前に視界はブラックアウトした。
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