第12話 不穏なフラグは突然に


 イッテツさんの武器を買ってから数日が経過した。

 このところ仕事の関係でログインは最低限の時間しかできていない。その際、イッテツさんとたまたま町中で再会し、フレンドになったり雑談したりして仲良くなった。そこで聞いた話や、ちょっとした空き時間にゲーム内掲示板にアクセスして情報収集はしていたので基礎知識の方はかなり増えている。

 テイマー関係の情報も、モフアイさんというプレイヤーがかなり検証をがんばって書き込んでくれているので入手できた。


 今日は久しぶりに自由な時間ができたので、フリーフロンティアオンラインの世界へと意識を飛ばした。


「マモルごめんな、元気にしてたか?」


 宿の部屋の中で大人しく待ってくれていた賢い従魔に声をかけた。頭を撫でてみると尻尾を揺らして喜んでいる。


「夜になったら、久しぶりに狩りへ出よう。それまではここでまた待機していてくれ」


 長い時間部屋に閉じ込めておくのは主人としてどうなんだと思うが、マモルは日に当たるとダメージを受けるので仕方がない。

 イッテツさんたちみたいに土地と建物が欲しいな。庭付きなら暗所を作ってやればマモルも外を動き回れるだろう。もしくはペックの森みたいに木々の間隔が狭いところなら、入ってくる陽射しが少ないしどうにかなるのかもしれない。

 まぁ、今の俺の所持金では家を買うなんて夢のまた夢だろうし、ログインした目的を果たすとしよう。


「見た目は冒険者ギルドとあまり変わらないんだ」


 宿を出て向かった先は生産ギルド。イッテツさんから生産系の職についているなら、こちらで生産者として登録していた方が良いと言われた。

 中に入ってみたが冒険者ギルドの酒場のような喧騒はない。無音というわけではないが、とても静かで落ち着いた雰囲気である。


「すみません。生産者登録をお願いしたいのですが」


 冒険者ギルドと同じくカウンターがあり、そこに立っていた職員に声をかける。すると生産者登録は簡単な手続きだけで終了した。どうやらギルドカードは冒険者ギルドと生産ギルドで共通だったようだ。ただ、ちゃんと登録した方の依頼しか受けられないらしい。俺はどちらでも登録したので両方の依頼を受けられる。


「早速なんですが、錬金の釜と見習い用錬金本を購入したいです」


 生産者ギルドの説明を聞き終えた俺は職員へそう伝えた。話によると生産系スキルを使うのに必要な道具やレア度の低い素材はここで買うことができるらしい。せっかくなので早速、錬金術に必要な道具を買いそろえてみようと思ったのである。


「わかりました。合計で2000Gになります」


 高い……銅の剣2本分だ。

 これは来週の宿代が足りなくなるな。


「これでお願いします」


 代金を支払い終えた俺の懐はすっからかんになった。


 また一角兎でも狩るか、それともファーレン周囲にある残り2つのフィールドに出て戦うのか。お金の稼ぎ方について考えながら宿へと帰っていたところ、目の前に妙な人だかりが見えた。

 何事かと人だかりに紛れ込み、その中心にいる人物たちへ目を向ける。


「おい、あんた大丈夫か! 誰か神官系の職についている者はいないか!!」

「呼ばなくていい。おらぁ…………もう助からねえ。血を……流し過ぎた」

 

 NPCの狼の獣人と1人のプレイヤーがいた。獣人の方はどてっぱらに穴を開けられて息も絶え絶えといった感じである。プレイヤーの方はどうにか彼を助けようと、回復魔法が含まれる光魔法がスキルリストから取得可能な神官職の者を探しているようだ。


「何言ってるんだ! 光魔法による治癒なら可能性はあるはず。諦めるには早いだろ!!」

「たしかに……上位の回復系魔法……なら、治るかもなぁ…………でも、こんな辺境の町に都合よく……それを扱える神官がいるわけがねぇ」


 きっとプレイヤーが必死になって獣人を生かそうとしているのは、NPCは一度死ぬと蘇らないからだろう。


「それよりも……あそこにいる、あんちゃんを…………呼んで、くれ」


 獣人はそう言うと、俺たち野次馬がいる方を指した。プレイヤーは少し悩むような素振りを見せるも、頼みを聞くことにしたらしい。


「聞いていただろ? こっちにきてやってくれ」

「えっ、俺?」


 なんと彼は俺に声をかけてきた。どう考えても人違いである。狼の獣人NPCなんて知り合いにいない。


「なんだ、知り合いってわけじゃないのか……狼さん、この人でいいんだよな?」


 彼も俺たちが知り合いなのだろうと思い、声をかけたらしい。


「ああ、そいつで……いい」


 本当に俺でいいの?

 ほんとに赤の他人なんですけど。


「だそうだ。とりあえずきてやってくれ」

「わかりました」


 流石に死に目の者の頼みを断るわけにもいかず、俺は獣人の方へと駆け寄った。


「あのなぜ俺を?」

「別に頼みが、ある……とか、そういう話じゃねえ」

「じゃあ、どうして?」

「ただ、気をつけろ。そう……忠告した、かった……お前も俺と同じくアレを大量に狩ってきた……はずだ。おらを襲ったやつはきっと、お前の……ところにも――――――」


 獣人は最後まで言い切ることなく息を引き取った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る