第9話 死骸とドロップアイテム
「また蹴り落とすから」
「了解! ソーンバインドいつでも使えるよ」
木の上で吞気にお食事中だった猿のような魔物、レッサーコングが突然木が揺れたことに驚いて自ら地上へ飛び降りた。
落ちてくる場所はだいたい予測できるので、着地直後に攻撃を加える。猿も防御しようとするが間に合わず、脳天へと木の剣による一撃が叩き込まれた。そこへ妻が植物魔法・ソーンバインドを発動し、茨で拘束。後はひたすら剣でぶっ叩く。最後に水魔法・ウォーターボールがトドメとして飛来して終わりだ。
俺1人だと拮抗する相手も妻がいることでスムーズに討伐が進んでいた。朝から狩り始めて早3時間。アイテムボックスにあるレッサーコングの死骸はもうすぐ10になる。
「これって結局、猿? ゴリラ?」
「名前的にゴリラっぽいけど、どっちでもいいんじゃない? 俺は一応猿派ではある」
仮にゴリラの魔物なら、ヒュームである俺の筋力程度ではそもそも攻撃を受け止められないはず。だからこそレッサーって名前についているのかもしれないが。
「じゃあ、私は名前を信じてゴリラ派になろっと。ハイトは逆張りしてるし」
「別にそんなつもりはないんだけど……おっと、話は一旦中断で。また猿の気配がする」
「あっ、ハイトちょっと待って!」
流れるように木を蹴る動作に入ったところで妻から止まれと言われた。
「どうしたの?」
「その剣の耐久値、もうほとんどないよ」
耐久値…………?
「もしかして……ハイトまだ鑑定取ってない?」
「うん。今のところSPってレベルアップ以外で手に入らないっぽいから、スキルの取得は慎重にしてるんだ」
「すぐに取った方がいいよ。鑑定持ってないと装備とアイテムの詳細わからなくて困るみたいだから」
なんだって!?
そんなこと一切知らなかったよ!!
俺よりプレイ時間が短いはずの妻がどうして知っているのかは非常に気になるが、それより先にやることがある。
木の上の猿は放置して、俺はすぐにステータス画面を開く。そしてSPを2消費して鑑定を取得した。
木の剣
レア度:1 品質:低 耐久値:1/15
上昇値:力+1
特殊効果:なし
見習い用の木の剣。すぐに壊れる。
本当に壊れる寸前だった。
「リーナありがとう……これで次戦ってたら危なかった」
危うくあの猿と素手で取っ組み合いをする羽目になるところだった。リーナがいるので負けることはないと思うが、そんな見苦しい絵面は勘弁だ。
「いいのいいの。二人ともレベルはあがったんだし、一回街に戻ろっか」
丁度、時間も昼時なので俺たちはファーレンに帰還した。
宿に戻ると女将さんから朝晩のご飯は最初に支払った料金の内だけど、昼は別にもらうと言われた。なら外で食べようという話になったが、その前に俺はやりたいことがあるからと少し時間をもらっている。妻は絶賛マモルにちょっかいを出し中だ。
「これでわかるといいんだけどな」
アイテムボックスから一角兎とレッサーコングの死骸を1つずつ取り出す。
一角兎の死骸
レア度:1 品質:低
解体前の一角兎の死骸。解体すると取得可能なアイテムへとランダムで姿を変える。
レッサーコングの死骸
レア度:1 品質:低
解体前のレッサーコングの死骸。解体すると取得可能なアイテムへとランダムで姿を変える。
やっぱりヒントが隠されていたか。
俺がマモルと初めての狩りに出た夜、冒険者ギルドで受けたのは一角兎の角や皮の納品依頼だった。なので魔物を倒せばそういった素材が手に入ると考えていたが、実際に戦って手に入ったのは魔物の死骸のみでどうすればいいのかわからなかった。
しかし、妻が鑑定を持っていればアイテムの詳細を見ることができると言ったときにピンときた。死骸を鑑定すれば何らかのヒントを得られるのではないだろうかと。
その結果がこれだ。<解体>というワード。実際にナイフか何かですることもできるかもしれないが……ここはスキルリストを覗いてみるべきだろう。
「あった!」
やっぱり解体という名のスキルが存在した。SPも最安値の2だったので即取得。目の前にある一角兎の死骸に対してスキルを発動させた。
一角兎の角
レア度:1 品質:低
一角兎の角。先を触ると少しチクりとする。調合や錬金術の素材となる。
一角兎の皮
レア度:1 品質:低
一角兎の皮。あまり頑丈ではないが、軽く扱いやすい素材。
きたきたきた!
納品依頼を達成するために必要なアイテムだ。俺はアイテムボックスに山のようにある素材を次々と解体していく。
レッサーコングの歯
レア度:1 品質:低
ヒュームの歯に似ている。使用用途は不明なので売っても二束三文。
アップルン
レア度:1 品質:低
レッサーコングの好物である果実。熟した赤い状態であれば料理の食材として扱うことができるが、この実はレッサーコングによって熟す前の青い状態で採取されたので食用としては使えない。
「レッサーコングのドロップアイテム、ゴミばっかりだな……」
「どうしたのハイト?」
俺がゴソゴソとアイテムを取り出して解体していたのに気づいたのか、妻とマモルが興味津々でこちらへ近づいてくる。
「鑑定のおかげで死骸をアイテムに変える方法がわかったんだよ。でも、レッサーコングのドロップアイテムが使い道のなさそうなものばかりでガッカリしてたとこ」
「まぁまぁ、そういうこともあるって。ご飯でも食べに行ってさ、切り替えよ?」
「そうだね。美味しいご飯が見つかると嬉しいな」
食の好みなんて人それぞれなので、宿のご飯が万人にとってまずいものだとか言うつもりはない。ただ、俺たちの口には全く合わなかった。どうせ同じお金を払うなら、よりおいしいと感じられるものを食べたい。
「根気よく探そう。味覚まで再現された世界なんだし、きっと私たちに合うご飯もあるはず!」
こうして午後は旨いもの探し兼ファーレン散策をすることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます