第8話 魔法特化型
「今日はレベルあげるぞ~」
「ここ初心者用のフィールドだし好きにしていいよ。サポートは俺がするから」
朝一からログインした俺は妻と二人でパーティーを組み、穏やかな草原を訪れていた。目的は妻のレベルを上げること。俺のレベルアップもできれば嬉しいが、一角兎を倒すことで手に入る経験値ではなかなか上がりにくくなってきたので期待はしていない。
「余裕だね」
「まぁ、マモルと一緒に一晩ここで戦ってたから」
勝手知ったる我が家とまでは言わないが、ここなら多少ミスしたところで死ぬことはないだろう。
「おっ、早速獲物発見!」
日が出てしまっているので、マモルは連れてきていない。そのため今日は俺が索敵を担当する。明るいので、スキルでなしでも大丈夫だろう。
「ほんとだ! 早速行くぞー」
「ストップ!! せっかくだから植物魔法を試してみなよ」
魔法ってどんな感じで発動するのか気になるから。
「おっけー! 植物魔法・ソーンバインド」
妻がそう唱えると狙っている一角兎の足元に黄緑に発光する魔法陣が現れた。それから1秒ほど置いて、魔法陣から4本の茨が伸びて目標へと絡みつく。
「捕獲完了!」
こちらにピースする妻だが……。
「後ろ危ないぞ~」
別の一角兎が俺たちに気づいて裏から接近していた。そいつのヘイトは魔法を使った妻へ向いていた。
「きゃっ」
可愛らしい悲鳴をあげながら、小型の魔物にぶつかっただけとは思えないほど大げさに転げる。
「大丈夫か?」
「う、うん。衝撃はすごかったけど痛みはないから」
このゲームでは攻撃や防御時に受ける際、衝撃のみ有効と設定されている。だから痛みがないことはわかってはいたが、派手に転ばれると心配になる。
「とりあえず一角兎は俺が倒すから。ここで休んでて」
妻を転ばせた一角兎は再び彼女を標的として、体当たりするために跳んだ。その間に入った俺は向かいくる魔物の頭を木の剣で思いっきり叩く。
そして植物魔法の効果が切れて、解放されたばかりのもう1匹の敵に対して全速力で距離を詰める。俺の接近に気づき、逃げる背に一撃を加えて戦いは終わった。
「終わったよ。リーナのメイン職、レベル上がったんじゃない?」
俺のときは一角兎を2匹討伐した時点でレベルアップした。メイン職は同じだし、たぶんリーナもそうなるはず。
「上がったよ。さっきアナウンスが流れたから間違いないと思う」
「それはよかった。SPもらえたのなら、攻撃に使えそうな魔法を取ってみるもありかもね」
「そうだね。スキルリスト見てみる」
しばらくリーナがスキルリストとにらめっこしているのを見守る。もちろん魔物が近寄ってこないかの確認は怠らない。
「ハイト~、ダメだったよぉ……」
「え、どういう意味?」
「スキルリストを見る限り、魔法って基本的なものでもSP4は必要みたいなの」
それは予想外だ。俺のスキルリストにはなぜか魔法系が一切ない。なので必要SPがまさかレベルアップ2回分だとは思いもしなかった。自分で取得した剣術(初級)を始めとする武器系スキルは全て必要SP2なので、魔法も同じだと思い込んでいたのだ。
「仕方ないから、俺が後数匹倒してもう1つレベルあげる?」
「お願い」
それから一時間も経たずに、妻の見習いテイマーとしてのレベルが3になった。その際、SP4を消費して魔法を一つ習得。
リーナ・アイザック(ダークエルフ)
メイン:見習いテイマー Lv.3
サブ1:見習い料理人 Lv.1
サブ2:見習い農家 Lv.1
HP:38/60 MP:51/80
力:6
耐:3(+3)
魔:28
速:24
運:5
スキル:テイム、料理、栽培、鑑定、植物魔法←new、水魔法←new
称号:―
SP:0
水魔法を取得時にウォーターボールという魔法を覚えたので、次からは妻も戦闘に参加できる。高い魔力を持つダークエルフの強みを発揮できるはずなので楽しみだ。ただ、そうなると俺1人でも余裕で戦い抜ける穏やかな草原ではおもしろくないだろうという話になり、別のフィールドへ向かうことになった。
――――ペックの森。ファーレンに四方にあるフィールドの1つであり、穏やかな草原の次に難易度の低い場所だ。
背の高い木々と、揺れる葉の隙間から窺える日の光がなんとも心地良い。ここに湖でもあれば、その畔に家を建ててスローライフをしてみたい。
「ハイト~、魔物いないね」
森に入ってから1時間。未だ魔物との遭遇はなし。普通に考えていないわけはないのだが、どうも見つけられない。
仕方ない。ここまで全て貯めていたSPを少しだけ使うことにしよう。俺はSPを6消費して気配察知のスキルを取得する。マモルが持っているので、取らなくてもいいかと考えていたが、あの子は日中戦えない。それを考えると俺か妻のどちらかが取った方がいいだろう。
「いた。木の上だ」
姿が視認できるわけでも臭いがするわけでもないが、スキルの効果で感覚的に敵の位置がわかった。とにかく敵を視認できないのでは話にならないので、俺は全力で木の幹を蹴る。
「キキッ」
すると甲高い鳴き声と共に背丈が俺の腰まである緑の体毛を持つ猿が落ちてきた。
「昆虫みたいな見つけ方だね」
「ギイイィ!!!」
妻の言葉を理解したのか、それとも本能的に煽られたと感じたのか。猿は妻へとかなりの速度で迫る。
「させるか!」
猿の前に躍り出て、木の剣を横に振るう。すると猿も乱暴に腕を振るい、互いの攻撃がぶつかった。
――――押し切れない。
俺より小柄なはずの敵の攻撃が重く、耐えるだけで精一杯。このままではまずいが、どうすればいいのかわからない。
「植物魔法・ソーンバインド」
妻の声が聞こえたかと思うと、足元に魔法陣が展開された。そこから4本の茨が出現し、猿を捉える。
「ありがとう、リーナ!」
魔法によって拘束された猿は身動きがとれない。好機を逃すまいと俺は全力で木の剣を振るい続ける。
「くそっ、血は出てきてるけどぜんっぜん死なない!」
「ハイト、私も攻撃するね! 水魔法・ウォーターボール!」
人の顔くらいある水弾がこちらへ飛来する。俺は念のため一度猿から離れた。
<見習いテイマーのレベルが1あがりました。SPを2獲得>
初めて出会った強敵は妻の魔法によって沈められた。
「すごいな……俺の攻撃ではなかなか倒れなかったのに。リーナの魔法で1発だ」
「ハイトの攻撃で血は流れてたんだし、全部私のおかげではないでしょ? それに魔力特化の種族なんだからこれくらいできないと困るよ」
たしかにバランス型が魔法特化型の魔法より威力の高い攻撃なんてできたら、特化型の面目丸つぶれだ。
「リーナの言う通りか。でも、これではっきりしたね。俺は索敵と盾、リーナは火力担当って感じでいけば上手く戦えそうだ」
「うんうんっ。よ~し、草原ではおんぶにだっこだったから森ではがんばるぞ!」
猿の死体を回収した俺は、張り切って先に歩き出した妻の背を見失わぬよう、急いで華奢な背を追った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます