第10話 フライドラビット


「結構儲かった」

「ハイトとマモルがバカみたいに兎狩りしたおかげだね」


 まだ見ぬ美食を求めてファーレンの町へとくり出したものの、最初に宿代を1週間分まとめて払ったことが響いて金欠状態だった。どうにかしてお金を得ないと満足な食事ができない。問題を解決すべく冒険者ギルドへ向かい、依頼の品である一角兎の角と皮を納めたのだが……なんとこれらの依頼は常設依頼であるため、繰り返しの受注、納品が可能とのことだった。アイテムボックス内にあった一角兎の素材のほとんどを納品した結果、そこそこの額が手に入った。


「ほんとだよ。もしあれがなかったら、金欠のまま使い道のわからない猿の素材に恨み言でも吐いてるとこだ」

「それは嫌だなぁ」


 雑談を交えながら歩き続けていたが、ついに目的地へと辿り着いた。

 ここは初めてログインしたときに立っていた中央広場から繋がる屋台通り。

 素材を納品した際、カウンターで対応してくれたギルド職員から食べ歩きに向いている場所と聞いてきた。 


「あ! あの屋台、フライドラビットっていうの売ってる……」

「買ってくる」


 俺は寿司と肉には目がないんだ。日本では兎肉なんて一般的ではないし、食べることもそうないだろう。であれば、この機会を逃すなんて愚かなことはできないッ!!


「すみませーん。フライドラビット4つください」

「いらっしゃい! フライドラビットなら1つ80Gだから4つで320Gだよ」


 体格の良い屋台のお兄さんにぴったり320G渡す。ちなみにこのゲームを始めたときの所持金は1000Gなので1本80Gは絶妙な値段設定だと思う。


「320G丁度だね。紙袋に入れるからちょっと待ってな……はい、どうぞ。味が気に入ったら、またきてくれよ!」


 ニカっとした笑顔に見送られて俺は妻の元へと戻った。


「2つずつだから、欲しくなったら言ってね」

「うん、ありがと。その分お金渡すね?」

「今回は奢りでいいよ。一角兎のクエストクリアの報酬全部俺がもらったし」


 本当はクエストの報酬としてもらったお金は折半するつもりだったのだが、一角兎狩りに自分はほとんど参加していなかったからと妻が辞退した。独り占めはあまり気分が良くないので、ご飯代くらいは出させて欲しい。


「わかった。じゃあ、早速1つちょうだい?」


 それぞれ1つずつフライドラビットを食べながら、移動を始める。


「すっごい柔らかいお肉だね~」

「それにサイズが結構大きめだから食べ応えもある。屋台のお兄さんも良い笑顔の人だったし、リピート決定!」

「さんせ~い。ってことで、もう1つちょうだい?」


 もう1つ目を食べ終えたのか。けっこう大きな肉だったのに。

 そして最後に残されたフライドラビット。それを胃に収める前に俺は鑑定をかける。




フライドラビット

レア度:1 品質:中

満腹度+20

一角兎のレアドロップである兎肉をフライにしたもの。




 満腹度なんて設定されてたんだ。きっと今までは満腹度がなくなる前に宿の食事で満たされていたから気づかなかったのだろう。

 でも、重要なのはそこじゃない。材料である兎肉が一角兎から取れるという点だ。あれだけ狩ったのに俺は入手していない。どうやら運が悪かったらしい。一応、ステータス上同レベル帯なら、低い方ではないと思うんだけどなぁ。


「リーナ、道具さえ手に入れば兎肉で料理できそうだよ。鑑定したら兎肉は一角兎から取れるってわかったし」

「えっ、ほんと!? すっごい嬉しい!!」


 妻はフライドラビットを食べているとき以上の笑顔を浮かべていた。理由は彼女の料理の腕が壊滅的で現実だと料理をさせてもらえないからである。

 もしかしたらゲーム内でスキルの補助を受ければ食べられるものを作れるかもしれない。そう思い見習い料理人というサブ職を選んだのだろう。しかし、ゲームを始めてから今日まで食材自体の入手方法がわからなかったので挑戦できなかった。それが今日やっとフライドラビットと鑑定のおかげで判明した。喜ばずにはいられないだろう。


「他の食材もきっとこの先、入手方法がわかるはず。そうしたら好きなだけ挑戦してみるといいよ」

「うぅ~、楽しみだなぁ……私、これからどんどんこのゲームが楽しくなる予感がするよ」

「俺もそう思う」


 いつかくる妻の手料理が食べられる日を楽しみに、VRMMOライフを楽しんでいくとしよう。



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