第7話 悪役プロレスラー令嬢 VS 悪役令嬢

「さあ、肉ですわッ! 大量の肉をゲットいたしますわよーッ! おーほっほっほ!」


 私は、みずから皿を持って肉料理が陳列してあるコーナーへと向かう。サラダやデザートには目もくれず、肉料理のコーナーへと真っすぐ向かった。


 一流のシェフが作った肉料理の数々が所狭ところせましと並んでいる。また、牛のステーキはシェフが目の前で焼いているケータリングスタイルだ。


 私はトングを使って料理を取っていく。まずは、牛サーロインのステーキ300グラム。これを2枚ほど皿に乗せる。肉汁がしたたっていてジューシーだ。さらに、骨付きのローストチキンも2つゲットする。続いて、ローストポークにラムチョップも。


「ふふふ。これだけあれば十分ですわ! まるで、お肉の宝石箱ですわ!」


 皿の上には、ずっしりと1キロ以上の肉が盛られている。色々な肉料理が盛られて、さながら肉料理の百貨店デパートと言ったところか。私は、肉の量に満足するとキャシーやロッテ、フローラの待つ席へと戻ろうとした。


「ん? 何かしら? 騒がしいですわね?」


 何やら席の方が騒がしいのに気づく。見ると、フローラたちの座っている席の近くに数人の女子生徒たちが立っていて、何か揉めているように見えた。私は、女生徒たちの前を通って席に戻るとキャシーとロッテに声をかける。


「キャシー! ロッテ! いったい何事ですの?」


「ジェシカお姉さま! この方たちが突然、私たちに文句をつけてきて……」


 キャシーとロッテは、困った顔をしていた。数人の女子生徒たちが急に絡んできたらしい。女子生徒たちの中央には、金髪に縦ロールの派手な髪型の女子生徒がいる。いかにも貴族のお嬢様といった風貌だ。(私が言うのも何だが……)


 その派手な髪型の生徒は、何度か顔を見たことがある。確か、隣のクラスの女子生徒のはずだ。


「あなた達、わたくしの友人に何か用があるのでして?」


 私は、前に出ると金髪縦ロールの女子生徒に向かって毅然きぜんとした態度で言い放った。その女子生徒は腕を組んで不敵な笑みで答える。


「まあ! ご友人ですって? ジェルロード家のご息女ともあろうお方が…… こんな三流貴族の娘や、ましてや貴族でもない庶民の娘と交友関係にあるのかしら? お友達は選ぶべきでしてよ? ご両親から教わらなかったの? ジェシカ・ジェルロードさん」


 向こうは、私のことを知っているようだ。意地悪そうな目つきで私を見ている。しかし、こちらは相手の名前が分からない。隣のクラスの生徒らしいとしか分からない。


 三流貴族というのは、キャシーとロッテのことであろう。彼女たちは、あまり身分の高い貴族の家の出身とは言えない。そして、庶民の娘というのは言わずもがな。フローラのことである。


 彼女たちを馬鹿にする態度といい、派手な見た目といい、それなりの身分の貴族なのだろう。だが、プロレスラーとしての前世の記憶が蘇った私にとって、身分の高さなどクソくらえである。身分よりも腕力が優先されるのだ。


 とにかく、名前も知らない相手に友人を馬鹿にされるのは許せない。私は、金髪縦ロールの女子生徒に嫌味を返す。


「それはどうも。ご忠告感謝いたしますわ。ところで、どちら様でしたかしら? どこの馬の骨とも分からない方に、そのようなことを言われる筋合いはないのですけれども」


「な、何ですって!? わたくしは、ニーナ! ニーナ・ニルヴァーナ! ニルヴァーナ家の娘よ! よくも、わたくしに向かってそんな口が聞けますわね! ジェシカ・ジェルロード!」


 ニーナと名乗った金髪縦ロールの女は、私の態度に憤慨している。自分の家柄には、随分と自信があるようだ。だが、相手の家柄など知ったことではない。私は、強い口調で言い放った。


「お黙りなさいッ! ニルなんとか家がどうだか知らないけど…… たとえ誰であろうとも、わたくしの友人を侮辱するのは許しませんわッ! ボンバイエ!(殺っちまえ!)いたしますわよ!」


「ふッ! こんな三流貴族や庶民の娘を友人とは…… ジェルロード家の格も地に落ちたものですわね。ここは、一流の貴族たちが集う食堂レストラン。あなた達には、相応しくなくてよ! 出てお行きなさい!」


 ニーナが喋り終わった。その瞬間であった……


「シャーッ! ンナロォーッ!(この馬鹿野郎ッ!)ですわッ!」


 私は、ニーナの頬を思い切り平手打ちする。パチィーンッ!と心地よい破裂音が辺りに響いた。


「きゃあッ!? な、何をするのですかッ!? いきなり暴力を振るうなんて! なんて野蛮な…… 信じられませんわ!」


 ニーナは、頬を押さえて驚きの表情で震えながらこちらを見る。ニーナの取り巻きの女子生徒たちも信じられないといった表情でざわついている。私は、冷たい微笑みを浮かべた。


「おほほほ! 今の平手打ちは暴力ではありませんわ。これは、愛情…… わたくしの愛情を注入いたしましたのよ?」


「愛情ですって!? なんて、ふざけたことを…… 許しませんわ! 絶対に許しませんわ! ジェシカ・ジェルロード! この落とし前は、必ずつけてもらいますわ!」


 怒りをあらわにして興奮するニーナ。私は「ふぅ」と小さなため息をついた。そして、今度はニーナの腹目がけてキックを繰り出す。いわゆる、ケンカキックである。


「きゃあッ!」


 ニーナは後ろに倒れそうになるが、周りにいた女子生徒たちに支えられて、何とか倒れずに持ちこたえた。私は、ニーナたちに向かって言い放った。


「黙れと言ったはずですわ! ニーナ・ニルなんとか! 今度、その臭い息を吐いてごらんなさい。ボンバイエ!(殺っちまえ!)いたしますわよ! よろしくって?」


「くッ……」


 ニーナは悔しそうな顔をすると、周囲の女子生徒たち「行きますわよッ!」と声をかける。そして、背中を向けると私たちの前から去って食堂を出て行った。


「やれやれですわ…… ようやく静かになりましたわね。さあ食事にいたしましょう?」


 ニーナたちが出て行き、ようやく静かになった。フローラたちの方を振り向くと、フローラが申し訳なさそうな顔をして立っている。


「ごめんなさい…… ジェシカさん。私のせいで、皆さんにご迷惑を…… 私、他の場所で食事します」


 そう言って出て行こうとするフローラの腕を、私はすぐに掴んで止めた。


「お待ちなさい! フローラ! あなたのせいではなくてよ。あのような人間の言う事など気にする必要はありませんわ。フローラ。そして、キャシーとロッテも。誰が何と言おうと、あなた達は私の友達ダチですわ。何も気にする必要はなくってよ!」


「……ジェシカさん!」


「……ジェシカお姉さま!」


 フローラたちは、今にも泣きそうな顔をしている。私は、優しく微笑んで彼女たちを席に座らせた。


「さあ、せっかくの料理が冷めてしまいますわ。早く食べましょう! みなさん、肉を食べますわよッつ! 肉をッ!」


 テーブルの中央には、肉が山盛りに盛られた皿。フローラたちは、それを見て泣きそうな表情から唖然とした顔になる。


「……ジェシカさん。これ全部食べる気ですか?」


「……ジェシカお姉さま。これは、ちょっとエグい量ですわ……」


 彼女たちは、別の意味で泣きそうな顔になった。


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