第三夢『昔話』
僕達は校舎を出て剣さんの車に乗った。
「凪兎、どこ行くんだ?」
「俺の家に行く。」
僕ではなく剣さんが答えた。
「そういえばお前誰?」
「・・・名乗って居なかったな。俺は富野原 剣だ。」
「お、お。藤峰 満。」
「ねぇ、凪兎。こいつ連れて来たがどうするつもりだ?」
助手席に座っている僕に京が聞く。満は京の隣で「おい」と言っていた。
「う〜ん・・・まだ決めてなくて・・考えてるところ・・・」
ポケットからメモ帳を取り出し、箇条書きで何かを書き込んでいく。
「凪兎君。酔うよ。」
「・・・う〜ん・・・」
「・・・おい!確か京って言ったよな。」
「?・・何だ。」
嫌そうな口調で返事をする京に満が頭を掻いた。
「俺に話ってなんだ?」
「・・・・お前、人に恨まれるようなことした覚えあるか?」
京の質問に戸惑っているのか何も言わない満に呆れたのかため息を吐いて「もういい、お前の質問は家に着いてから話してくれるだろう。静かに待ってろ。」と言って黙った。満も何も喋らなくなって車の中が静かになった。
数分して車が止まり、剣さんの家に着いた。
「着いたから降りて・・・・ささっと入れ。」
「「お邪魔します」」
声を揃えて言う。希空さんと剣さんに「先にリビングに居て」と言われて3人でリビングに向かい僕はテーブル近くの椅子に京は僕の近くのソファーに満は僕の向かい側に座った。
「凪兎、どうだ。何か思いついたか?」
「色々書き出してみたんだが・・・これだっているのがなくて・・・」
京にメモを渡した。
「あぁ、なるほど・・・確かに確実なのが欲しいところだな・・・」
「・・・・・凪兎と京はどう言う仲なんだ?」
僕と京が話しているのを見ていた満が言葉を発した。
「・・京は従兄弟なんだ。」
「従兄弟・・・従兄弟か。仲良しだな。」
羨ましそうな口調と目で言う。
「満のいとこはどう言う感じなんだ?」
「・・最近会っていないから今は分からないけど、毎日のように喧嘩していたな。・・・」
ため息を吐いた。「そっか・・」といつもより優しい口調で京が言った。
扉がガチャと言う音がして開いた。剣さんと希空さんがリビングに入って来た。
「お待たせ。まずは初めまして富野原 希空です。千秋さんとは仲良くさせて貰っています。ちなみに千秋さんは凪兎君のお母さんね。」
「は、初めまして藤峰 満です。凪兎のクラスメイトです・・・」
希空さんのテンションについていけないのか少し吃っていた。希空さんは頷いて二人分の椅子を持って来た。そこに剣さんと一緒に座り
「じゃ、凪兎君。初めから話して貰える?」
「はい。・・・最初に、満。今から言うことは事実だから信じて欲しい。あと、決して僕は満を見捨てたりはしない。」
そう言うと照れくさそうに頷いた。
「ゴホン、満以外は知ってると思う。僕は、夢で起こったことが現実で起こると言う力を持っています。それで・・・昨日見た夢で、夢で、藤峰 満。満が誰かに殺されてしまう夢を見てしまって・・・・・」
僕が言うと全員が黙る。チラッと満を見ると驚きと困惑、恐れが顔に出ていた。
満・・僕を恐れないで、僕は満を救いたいだけだから、だからそんな顔しないで・・・・・
「ハァ?」
数秒、数分経ったころ誰かが声を上げた満だ。
「み、満、真実だと思って欲しい。本当なんだ。」
「・・・・凪兎!流石にこれだけは信じられねぇ。逆になんでお前らは信じられるんだ?」
満は立ち上がり叫ぶ。
「凪兎は嘘つかない。」
静かに呟く京。京は立ち上げり目線を満に合わせた。
「嘘をついてないとして凪兎は俺に死ねって言っているのと同じだろ?」
「言っていない。凪兎はお前を助けるために早退させたのが分からないのか?」
「あぁ、分かるわけねよ。・・・帰る。」
リビングの扉を開けようとした時
「待ちなさい!」
希空さんが満を引き留めた。満は振り返った。希空さんは満に近づいて
「貴方は死にたいですか?」
満に問いかける。
「満さん、貴方は『夢の予言』と言う昔話を知っていますか?」
満は首を横に振るう。希空さんは頷いて
「ではここで一つ昔話を・・・満さん、帰るならこのお話だけは聞いてください。
『昔、昔。ある有名な病院に凄腕の医者が居ました。ある時医者はある夢を見たのです。『自分が医療ミスをして患者が亡くなる』夢を。起き上がった時医者は首を横に振りました。「あれは夢。あれは夢」であると自分に言い聞かせて。今日も病院に行きました。たかが夢。医者は残酷にも夢のことを忘れてしまいました。いつも通り、完璧に過ごしていました。すると誰かが走って側までやって来ました。その人は医者に言います。「〇〇さんの容体が・・・」と医者とその人は急いで病室に向かいました。医者は最善を尽くしましただが、診断ミスをしていたのです。患者に投与した薬品は容体を悪化させる物だったのです。その数分後に患者は亡くなってしまいました。医者は鮮明に思い出しました。夢のことを医者は嘘だと、冗談だと、自分に言い聞かせました。その晩医者は疲れて意識を失うように眠りに着いてしまいました。医者が見た夢は『患者が苦しんでいるのに誰も助けに行かない夢』でした。医者は不安ながらも仕事をしていました。その日はやけに忙しく一つのことをやるのが精一杯でした。何時間か経った頃医者は急いで患者を見に行きました。嫌な予感が医者を襲って、冷や汗が出てくるほどに焦っていました。医者は病室の扉を開けました。そこには暴れた痕跡に花瓶が落ちて割れていたり、物が床から落ちていました。ベットに近づいて患者の顔を見ると・・・・・・・息をしていませんでした。医者は自分を責めました。「私が夢を見たからだ」と医者はそのまま自殺してしまいました。』
希空さんがふぅ〜っと息を吐いた。
「満?」
「う、嘘だ。嘘だ。信じられるはずが・・・」
「満さん・・・信じなくてもいいので私たちと行動してください。お願いします。」
頭を下げる希空さんを横目に満は黙ってリビングから出て行こうとしていた。
「満!お願い。僕を、僕を信じて・・・お願い」
「おい!お前は誰かに殺されるぞ!」
僕と京が言う。それでも尚。ドアを開けてしまった。僕は追いかけた。ポケットからメモを取り出し殴り書いた。外に出てしまった。満を追いかけて叫んだ。
「満!最後にこれ持って行って!これだけでいいか。」
満は黙って受け取ってくれた。最後に「ごめん」と言って帰ってしまった。
僕が夢を見なければ・・・ 風冬 紅 @husetu
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