第十二話 空の領土
「ここが……」
馬に
『
「隣国はこの地を所有地にしようとして、魔神にやられてるんだよな」
アラタは、つい一時間前に衛兵の屯所でやりとりした話し合いを思い出した。
「じゃあ、作戦会議を始めようか」
屯所内の会議室にてケイロスがアラタ、リコ、イリスに向かって声をかける。彼の声を聞き、三人は机の上に置いてある地図に目を移した。地図上には『
ケイロスは地図に記されている赤いバツ印を指差しながら、忌々しそうな口調で言葉を発する。
「ここまでは馬を使って行くんだが、それ以前にめんどうな所があってな」
「めんどう?」
「あぁ。『
「おい、おい、嘘だろ……」
ケイロスの言葉にアラタは思わず声を漏らしていた。
なぜなら、アラタのランクは五だからだ。このことから相手をした事のない敵がわんさか湧いてくる事が予測できる為、本命以前の問題になってくるのは想像に難くない。アラタとイリスはなんとか大丈夫だろうが、リコには道中すらも危険地帯だ。
リコの方を見てこの任務から降りるように忠告するが、「大丈夫ですよ、大丈夫」と言われた。声は震えていたので内心は怖がっているのは見え見えだったが、アラタに彼女の意思を砕く権利はない。
「イリスから質問」
「なんだ?」
「前々から思ってた事なんだけど……あなた達はこの場所を手に入れて何がしたいの?」
前に頼まれた時はイリスには何も伝えられなかった。あの時は誰かの役に立てるのであれば嬉しかったが、大切なものができた今は違う。理由がわからないと協力などできない。その気持ちはアラタやリコも同じだ。
だからこその質問だったのだが……意外にもケイロスからの返答はすぐに帰ってきた。
「簡単だ。この地にしか存在しない魔鉱石が欲しい。これがあればマナのない人間でも魔法が使えるようになる。冒険者稼業はますます発展して行くだろう」
「それを独占して他国と差をつけていくってわけか」
彼らが
「何を勘違いしている? 俺達は魔鉱石を独占しようなんて考えていない。むしろ逆だ。これを使って隣国とは和平交渉できるんじゃないかと思っている」
アラタが抱いていたケイロスのイメージとは違った言葉が返ってきた。そして……ケイロスはアラタの方を向いて頭を下げた。こんな事をする人ではないと思っていたアラタは虚を突かれる結果となる。
「隊長!」
気の抜けた雰囲気の部下が、鬼気迫る表情でケイロスの行為を止める。だが、ケイロスは頭を下げるのをやめない。
「あの時は脅してすまなかった。もうお前達にしか頼めないんだ。できればこちらも手伝ってやりたい。けど動かせる兵が少ない。それに……」
行っても無駄だというのは前に一度出兵させているケイロスには理解できていた。もちろん自分が出ても死ににいくだけだと言うことも……
そんな時に舞い込んできた希望の光──それがアラタだったのだ。
ここまでされて、ここまで言われて、断ったのであればアラタの良心に傷がつく。アラタはため息を吐きつつ、頭を掻きながらケイロスに向かって手を差し伸べた。
「わかったから頭を上げてくれ。俺で良ければ手を貸すよ。その……そんな事情があるなら最初から言ってくれりゃいいのに」
後半の言葉は恥ずかしさを隠しながら紡ぎ、双方でこの件についての同意ができた。
ここから具体的な話し合いに入っていく。そんな中リコが、
「肝心な具体的策はあるんですか?」
「────ない」
「は?」
「正確にはわからないと言ったほうがいいか。作戦会議を開いておきながら悪いな。だが、この事実を共有しておきたかったんだ。許してくれ」
アラタの無意識な疑問にケイロスは正直な言葉を述べる。意味のわからない返答だったが、ケイロスの言葉が事実だと、一度魔神と相対しているイリスの表情が物語っていた。
「アイツは……意味のわからない魔法を使ってくるの」
唇を震わせながらイリスが言葉を紡ぐ。顔を見ただけで魔神との一件は語りたくないのだと読み解く事ができ、アラタの中にも恐怖心が湧いてきた。
ますます謎だらけの強敵、魔神だが、アラタにも魔神に匹敵するだけの謎の魔法──『スキル習得』がある。この力は自分が不利に陥っている時、その場面に適した魔法が付与されるといった都合の良い魔法だ。
誰かがアラタに期待を抱きコントロールしている魔法のようにも思えるが、これのおかげで異世界に来てもなんとか生きていけているので感謝しかない。
「俺達から共有したい情報はこれだけだ。他に質問や良い案はないか?」
ケイロスが周りを見渡した。しかし、誰も言葉を発するものはいなかった。
仕方ない。今の話を聞いてパッと何かが浮かんでくるのであれば、そいつはその分野の天才と言っても過言ではない。それどころか、魔神を討伐できるだけの資質を持ち合わせた者だろう。
「では、作戦会議はこれにて終わりにする。今回はお前らに任せっぱなしですまない」
最後にもう一度頭を下げ、作戦会議という名目の情報共有は無事に終わった。
「ささやかだが、俺達から助っ人を用意させてもらった」
自分が行けない申し訳なさからか、ケイロスは強力な人材を派遣してくれたらしい。
言葉を発した後、扉の方を向く。彼の動きに釣られて皆も同じ方向を見た。すると……扉が開かれて二つの影が入ってきた。
「ヤッホー!」
影のひとつが陽気な声を出す。耳に入ってきた声に聞き覚えのあったアラタは、驚きを覚えた。
「お前らは……」
ひとつはピンクのストレートヘアーに女性にしては高い身長をしている女性。
ひとつは矮躯で金色のセミロングの女性。
二つの影──アリス・R・ペルフェクティオとメイア・ベルナールが助っ人として魔神討伐に参加してくれる事になった。
と、そんなこんなで今に至るのだが……
「まさかアンタと任務に行く羽目になるとはね」
「しゃーねだろ。お前の
「そうや! それにウチはアラタと任務行けて楽しいよ。約束が叶ったし!」
好印象のメイアと嫌悪感を抱くアリスとでは態度が真逆だ。男が苦手とは聞いていたが、ここまでされると異性間とか関係なしに心が傷つく。
「でも、お二人凄かったです! 道中のモンスターを顔色ひとつ変えずに倒しちゃうんですから。私尊敬しちゃいます」
「そうか。なんか照れるなー」
「別に……あれくらい普通」
「まぁ、道中は助かったよ。お前らのおかげでなんとか苦戦せずにここまで辿り着けたんだしな」
アラタも活躍したが、イリス、メイア、アリス程ではなかった。彼のやった功績といえば……防御魔法でリコを守った事だけ。それだけでも大したものだが、彼女達との実力の壁を感じた。
馬から降り、一行は『
ケイロスは鉱石と言っていたが、今の所そういったものがあるようには見えなかった。
広々とした草原にたくさんの動物が住んでいる。イリス曰くどれも穏やかな生き物らしく、襲ってくる事はないらしい。そうは言われても異世界の生態系を知らないアラタは警戒心マックスだ。
あれから結構な時間が経った。しかし、 どれだけ探しても魔神の魔の字も出てきやしない。本当にいるのかと思った時……イリスが足を止めて辺りを確認し出した。
「どうしたんだよ」
「いる……この近くに」
「は?」
「何いってんねん。なんも感じへんよ」
「私も」
「私もです」
イリスだけが感じたとんでもない違和感。だが、その違和感はすぐに姿を現した。
「僕の所有地で何してるの?」
耳元で吐息混じりの声がしたアラタはすぐさま振り向き、声の主を確認していこうとするが……その場には既に声の主はいなかった。次にそれが姿を現したのは、ここから百メートルも離れている草原の上。
突然のワープ現象。だが、魔法を使用してから魔神が顕現するまでの間の記憶がない。気づいたら目の前にいるような感覚だ。
驚きを隠せない五人を前に最強の存在は、軽やかに口を動かしていく。
「やあ、まだ僕に挑みにきたおバカさんがいるんだね。ちょっと残念かも」
声の主が顎に手をやりながら、考え事をしている素振りを見せながらため息を吐く。
遠くてよく見えないが、フォルムからして女だった。その女はまたも一瞬でアラタとの距離を詰めてくる。
そこで全容がわかったのだが、胸も大きく、かなり女性らしいスタイルをしている。肌は褐色で髪は黒の短髪。服は戦いやすくしてあるのか、軍服を着用している。そのギャップ萌えに普段であれば見惚れるのだろうが、今は男の本能よりも生物的な本能の方が上回る。
女は腰につけてあった日本刀に手をやり、一瞬の抜刀でアラタに迫ってくる。が、ギリギリで防御魔法──『
「確かにな……こりゃ何してるかわかんねぇわ」
一旦距離を取ったアラタが苦笑気味に今の感情を表に出す。そんな彼を見据えながら、魔神と呼ばれた女は憎らしい笑みを浮かべつつ余裕綽々の表情を崩さないのであった。
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