第六話 休息の地へ

 波乱の初クエストを終えたアラタとリコは、集会場に戻ってきていた。


「おかえりなさい。無事で何よりです」


「いや! あんなの聞いてないっすよ! 危うく死にかけたんですから」


「そうですよ」


 彼らの本来のクエストはスライムを三体倒すだけの簡単なものだった筈だ。なので、受付のお姉さんに張り紙の内容とだいぶ違っていた事を伝えていく。


「今後このような事がないように努めます。誠に申し訳ありませんでした」


 アラタの話を聞いて素直に頭を下げていくが、なぜこのような事態になったのかは彼女にも把握できていなかった。


 一通り手続きは終わり、報酬が支払われる。それを懐にしまって集会場を後にしていこうとした時、


「そういえば、お二人はまだ寮には行かれてないですよね」


『寮?』


「はい、冒険者には専用の寮が設けられているんですよ。勿論、寮の家賃はギルド持ちなのでご安心を。まぁ、食費と光熱費は自己負担ですがね」


 要はひとり暮らしとほぼ同じ環境という訳だ。念願のひとり暮らしができる事を知ったアラタは……ガッツポーズをするほど歓喜していた。


「はしゃぎすぎですよ……って、言っても私も同じ事したくなっちゃうくらい嬉しいんだけど……」


「なんか言った?」


「ううん」


 アラタの言葉に首を振っていく。


「では、アラタさんはアレックスさんに、リコさんはアザベルさんに、それぞれ案内をしてもらうので少々お待ちください」


 そう言って受付嬢は奥の部屋へと入っていった。そして……待つ事二分。奥の部屋から長身の男と小柄な女が現れた。だが、


(いや! 男の方怖すぎだろ!)


 アラタがこう思うのも無理はない。何故なら、男の方は髪の毛で両目が隠れており、陰鬱で不気味な印象だったからだ。対して女の方は、おてんばという言葉が似合う程のとっつきやすい外見だったので「よかった……」と、リコは安堵の表情を浮かべた。


「よろしくお願いします」「よろしくね!」


『よろしくお願いします』


 目の前の男の怖さで、謎の緊張感で体が強張る二人だったが……


「少々お待ちください。鍵を作ります」


 そんな二人には気もくれていないのか、男は自分の手で拳を作り力を込めていった。すると……周囲が軽い熱気に包まれ、今までこの男が放っていた陰鬱な雰囲気が払拭される。それどころか、なぜか彼の掌に目線が惹かれる。


「できました」


 元の精気の抜けたような声で言い、二人に鍵を渡していこうとする。が、アラタとリコはボーッとしてしまい、鍵を受け取れなかった。鍵に目もくれていない二人に「あのー」と、アレックスは声をかけていく。


「────ちょとぼーっとしちまって……すいません」


「すいません!」


「ならいいけどー、念願のひとり暮らしだからって浮かれすぎちゃダメだよー」


 アザべルが二人の肩に手を置いて満面の笑みを作る。それを見て、ますます対照的な二人だとアラタは思った。


 鍵も受け取り、二人はお互いの案内人の指示に従っていく。女子寮と男子寮は別区域にあるとの事で、ギルド前でリコとは別れた。


 ギルドを出て一分。アレックスは大通りを外れて、一本隣の細道に入って行く。


 置いてなかったので仕方なく設置しました、と言わんばかりの数の街灯しかなく、凄く暗い。夕日が赤く照らす現在では背景も相まってか、かなり薄気味悪さを感じる。それに加えてこの男だ。


「最悪……早く着かねぇかな」


 ゾンビのようにのそのそ歩く男の後ろ姿を見て、怖気を感じるアラタだったが、肝心の話題の男はマイペースに歩いていく。


 しばらく道なりに歩いたが、目的地は意外と近かったらしく、ギルド出発から三分ほどで到着した。


 物静かな場所だ。周りに建物は二、三件しか建っておらず、露店などは存在しない。全面石造りでできた二階建ての建物はアパート風になっているが、流石は中世。ひとつのアート作品のような美しさを覚えさせ、こんな一本道を外れた場所に置いておくにはもったい建物だ。


 アラタは左端の部屋へと案内され、一通りの説明を受ける。


「室内は魔法によって防音加工がされていますので情報漏洩の心配はありません。あんな事やこんな事をしていても。ふふっ!」


(怖い! 怖い! 冗談のつもりだったんだろうが、精気のない声で言われても恐怖しか覚えませんよ!)


 とっつきにくい男がかました冗談に苦笑いで対応。渋い反応だったが、アラタの行為が嬉しかったのか、男は初めて表情が緩くなった。彼の笑った姿にアラタは、


(あれ? 意外と良い人?)


 ちょとだけ心が動かされた。


「では、私はこれで」


 背中を向けてまたもゾンビのようなのそのそ歩きで帰っていく。


 最後だけ少し気の抜けたアラタだったが、一緒にいる間は基本緊張しっぱなしだったので、やっと脱力する。


 ひと休憩を挟んだ後、鍵を開けて部屋の中へと入ったアラタは、今日溜まった疲れを癒す為、備え付けられていたベッドにうつ伏せに倒れたのだった。

 

 


 


 




 



 次回の更新は日曜日の20時を予定しております!

 是非よろしくお願いします!

 


 




 

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