第五話 初クエスト

 サイトウ・アラタ

 ギルドレベル一

 職業:冒険者

 装備:『闘神』(ブレード)

 魔法:『防護壁ディフェンダー(物理攻撃のみ有効)』『反射カウンター(魔法攻撃のみ有効)』


(やっぱ良いなー、冒険って感じがしてきたぜ!)


 クエストに向かう途中で、ステータスを開いて手に入れた武器が反映されているかを確認する。そんな彼を見てリコが、


「あのー、ステータスを開いてると危ないですよ」


「大丈夫、だいじょう……」


 その直後、ドォンという大きな音がしてアラタは盛大に転んでいた。原因は道にあった小石に躓いたからだ。忠告通りになったアラタを見てリコは、「やっぱりやりましたね」と呟く。


「痛てて」


「だから言ったじゃないですか」


「ごめん、ごめん。今度からは気をつけるよ」


 ステータスを見て歩くという事は、歩きスマホをするのと同じなのだ。当然、視界は狭まり、このような事も起こってしまう。


 街を離れていたので幸いにも馬車の類の乗り物はなく、大事故にならずには済んだ。


 今ので痛い目にあったので、ステータスは閉まって普通に歩いて行く。


 目的の場所までは後少しだ。初めてのクエストだが、不思議と緊張はしていない。むしろ楽しみなくらいで、剣──『闘神とうじん』を振るえるのを楽しみにしている。


 そんなこんなで道中は何も起きず、二人はクエストの目的地へと辿り着いた。


 二人の視界に映るのは広々とした草原。今は快晴で、爽やかな涼風も吹いており、とても心地よい。更には、肺に入ってくる空気も現実世界──特に都会では味わえない新鮮なもので、ふと居眠りをしてしまいたくなる。


「本当に合ってるんですか?」


「うん、ここであってると思うけど……まぁ、出てきたら俺が守ってあげるから」


「本当ですか……アラタさんってちょっと子供っぽいとこあるので心配です」


「いや! 一度俺の戦闘見てるよね!」


「確かにあの時はカッコよかったですけど……なんか今はおちゃらけてるように見えるというか……心配なんです!」


 リコの言葉はあながち間違ってはいないが、自分には二つの防御魔法がある。たかがスライム如きに負けるとは思っていない。むしろ、ワンパンのつもりでいる。


「じゃあ、見ててよ! 俺がスライムを……」


「アラタさん、後ろ……」


「へぇっ?」


 突然、アラタが大きな影で包まれる。リコの言葉で振り返ると、目線の先にはマスコットのような可愛い目で見つめている物体がいた。だが、大きさは異常だ。岩と表現しても過言ではない。


「えーっと、これが目的のスライムですよね……」


「そうだと思います……」


 二人で目を合わせる。そして……


「あぁぁぁ!」「キャー!」


 全速力で逃げた。


 逃げる二人をスライムは追いかけてくる。はたからは飛び跳ね、遊んでくれとじゃれているように見えるが、実際はそんな可愛い物ではない。確実に殺しにきている。だからこそ逃げるのだが……


「あんなの聞いてねぇぞ! 規格外だ!」


「守ってくれるって言ってましたよね。お願いしますよ!」


「こちとら剣だぞ。スライムに斬撃が効かないのは万国共通の知識なんだよ! だから、リコちゃんお願いします!」


「初めての人を殺す気ですか! アラタさんの事少し見損ないました! 最低です!」


「悪かったな!」


 こんな感じにお互いに言葉を交わし合っているが、スライムの追走さつりく行為は止まらない。二人はただっ広い草原を逃げ回る事だけを続けていくが、元々生命かどうか怪しいスライムには息切れというものがないのか止まろうとする気配が見えない。


「あのー、こんな時に言うのはどうかと思うんですが、あの男から身を守った時に使った魔法は使えないんですか!」


「あー! そういえば俺、防御魔法持ってたんだ!」


 パニックになり、自分の能力を忘れてしまっていた。リコの指摘によりアラタは逃走をやめて敵の方に身を曝け出し、魔法──『防護壁ディフェンダー』を使用した。彼の周りには水色の物体が現れ、二人は身は安全地帯へと移動できた。だが……


「おい、おい。嘘だろ……」


 その魔法すらもミシミシと音を立てて今にも壊れそうになっていた。


(万能じゃなかったのかよ……)


 あくまで物理攻撃に使えるとだけ詳細が書かれているが、無敵とは書かれていない。異世界召喚の恩恵の為、勝手な想像をしてしまっていただけだった。


「逃げろ!」


 許容範囲を越えそうになった『防護壁ディフェンダー』が壊れるのが直感的にわかったのか、アラタはリコに指示を出していた。逃げていた時とは感じられる雰囲気が違う。発せられる男らしい声からは惹かれるものがあり、リコは彼の意見に素直に従っていた。


「くそ!」


「どうするのよ」


「やるしかねぇだろ!」


 『防護壁ディフェンダー』を破られた後、スライムの攻撃を躱したアラタは、標的を鋭い眼差しで見据え、貰った相棒──『闘神とうじん』を鞘から抜き、構える。その姿で逃げられないのだと踏んだリコは弓を構えた。


「わ、私は何を……」


「援護を頼む」


「──わかりました」


 体から絞り出した声で返答をする。彼女の言葉を耳に入れたアラタは敵の懐へと大きく踏み込んだ。


 生命の本能か、スライムはアラタの行動を見た途端に大きく飛び跳ね、命を奪おうとしてくる。スライムの動きを見て、アラタは魔法──『防護壁ディフェンダー』を使用してその場を凌いでいく。この手のゲームはやり込んでいたので、初め手の実戦でも感だけでなんとかやり過ごす事ができた。


(おい、おい、本当に星一のクエストかよ!)


 難易度が異常でギルドの張り紙を疑いたくなってくる。


 一瞬だけ隙を見せたスライムに剣を突き刺していく。だが……


「やっぱ、効かねぇかー……って、あれ?」


 剣を思いっきり引っ張っていく。だが、抜けない。びくともしない。そんな状態を見て……


(嘘だろ!)


 捻っても、深く切り込もうとしても一ミリも動かない。もう助かるには剣を捨てていくしか方法がないのだが、これがなければ戦う方法がない為、手放すという選択を取れなかった。そんな彼を見て、


「今助けます!」


 ピンチの彼を見て、リコは火を纏った矢を思いっきり発射した。


 放たれた矢は一直線に進み見事命中。とは言っても、子供でも当てられるまとなので、外しようがないのだが。


「よっしゃ!」


 その姿を見てアラタは歓喜の雄叫びを上げる。火が弱点のスライムは終わり。これで解放される……はずだったが……


「えっ!」


 何事もなかったかのように火は見る見る消えていった。


「どういう事……」


「火力が足りねぇのか?」


 油が塗られていたわけでもなければ、爆発を起こせるようなものが仕込まれていたわけでもない。岩のようなスライムに多少の火は致命傷にはならなかった。


「アラタさん!」


 何度も火の矢を放っていくがまたも同じ。ダメージは与えられない。結局、全ての矢を無駄撃ちしてしまった。


 そうこうしている間に、スライムが攻撃準備を開始した。このままでは押し潰されてアラタの命は終わり。なんとかして剣を抜くしか方法はなかったのだ

が……


「剣は捨てて!」


「できるかよ!」


 異世界でくらい自分の夢を叶えたかったアラタは、彼女の意見を拒否。だが、それは死という事象が襲ってくる事を意味しており……


「うわ!」


 爆発した。


 突然の出来事で意味がわからなかったが、今の反動でアラタは剣と一緒にスライムの呪縛から解放された。しかし、スライムは倒せていなかった。それどころか黒焦げになりながらも、ピンピンとしている事を飛び跳ねてアピールしてくる。


 アピールをしているスライムを見ていると、目の前にアラタの意思とは無関係にステータスカードが現れる。



 サイトウ・アラタ

 ギルドレベル一

 職業:冒険者

 装備:『闘神(ブレード)

 魔法:『防護壁』『反射』『火操作ギーグ



(これって)


 また恩恵を受けられたという事だ。この『火操作ギーグ』という魔法のおかげでアラタはなんとか命を失わずに済んだ。


(もしかしてこれなら……)


 いける! 何故なら、スライムの弱点は火だから。


 運良くこの場に適した魔法が付与された。それを見て、アラタにある考えが過り、盛大に笑った。


「何笑ってるんですか! ピンチなんですよ」


 背中越しに見ているリコが忠告をするが、アラタの耳には彼女の声は入らない。その代わり、


(はっ! そういう効果もあるのか。すげぇ便利じゃん)


 自分の力を完全に理解したアラタは、自信満々に笑みを溢し、人差し指をスライムの方に向けて宣言する。


ギーグ!」


 彼の言葉と共に、巨大スライムを豪炎が包み込み、アラタ達を苦しめた敵は溶けていった。



次回の更新は金曜日の20時を予定しております。よろしくお願いします!

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る