第四話 男のロマン
「初めてのクエストだから強い人を求めてたんだね」
「はい、そのせいで変な男に引っかかっちゃいましたけど……」
茶髪のストレートロングの女性──リコが苦笑いをする。そんな彼女を見て、
「君は一切悪くないよ。悪いのは全部アイツだから」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
心底安心したのか、彼女は素の表情を見せてくれた。最初のイメージからは想像できない妹のような可愛さが見れてアラタは心を奪われる。
「どうかしましたか?」
「い、いや、なんでもない」
照れ隠しの為に顔を逸らして問題ない事を伝えていく。このままリコという女と一緒にいたら本当に恋をしてしまうかもしれない。
二人は今、クエストに向かって……と言いたいところだが、二人にはその前にやる事があった。
それは武器の調達。このまま何もせずクエストに向かったら丸腰でなので確実に死ぬ為、それは困る。
幸いにもリコの実家が武具屋らしく、助けてくれたお礼に無償で武器を授けてくれるらしい。
楽しく談話をしながら、彼女の実家へと向かって行く。家族以外の女子と話すのは小学生以来だが、意外と話していると楽しくなってきて、恐怖という感情を一切湧く事はなかった。
集会場から彼女の家までは二キロくらいあったのだが、話が盛り上がり過ぎてあっという間に辿り着いてしまった。
(おー、すげぇ家)
眼前に見える家に感嘆する。
街中にある庶民的な家とは大きさが違う。一回りくらい大きく、素材も木ではなくレンガが使われていて、高級さを肌で感じる事ができる場所だった。
「さぁ、入って」
リコが落ち着いた声色でアラタを自宅へ招き入れた。
中に入ると熱気がアラタを襲ってくる。想像はしていたが、外の温度と差があり過ぎて少しだけびっくりした。
「パパ、ただいまー。奥にある武器好きなのもらってくよー」
大きな声を上げていくが、仕事場の騒音にかき消されてしまい、父親には届かなかった。
それでもいいらしく、彼女は「こっち」とアラタを武器庫へと案内しくれた。その時、
「おぉ! お客さんか!」
手ぬぐいを巻いたいかにも職人というおじさんが声をかけてきた。口調は鈍った感じだが、意外にも面差しはダンディでリコが整った顔をしているのにも納得ができた。
「パパ、いるなら返事してよね」
「悪りぃ、悪りぃ、オラも忙しくて。その上音もうるせぇだろ?」
「でも、突然はアラタさんがびっくりするじゃん」
「あのー、僕を置き去りにしないでくださいよ」
「悪りぃな。武器だべ? 奥にあるから選べ」
「それと彼は私を助けてくれたんだから、無償で提供する事。忘れないでね」
「おぉ! そうか、そうか。ならいいべ」
と、一連の会話が終わり、リコとアラタは奥にある武器庫に向かった。
リコが扉を開けてその後に続く。すると視界には、弓、刀、双剣などたくさんの種類の武器がかけられており、さすが武器庫と名称されているだけあった。
(すげぇ)
ゲームでしか見た事のない武具もあり、アラタは少しだけ興奮気味だった。
「私は弓かなー。やっぱ、接近戦って怖いもんね」
彼女は見ただけで丈夫そうな弓を手に取り、性能面を確認し始める。そんな彼女にアラタも続き、武器を手に取っていく。
武器を見るまでもなく、アラタは既に何にするかを決めていた。それは……
「剣だろ! だって、剣は男のロマンだから!」
自分のもうひとつの夢を叶えるために、剣に手を伸ばしていこうとする。そんなアラタを見て、
「あのー、これから倒すのって……斬撃は相性的にマズイんじゃぁ……」
そう言って、忠告をしてくる。
これから彼らは『スライムの討伐』に行く。
本来は『キングビーの巣の駆除』というクエストを受注しようとしたのだが、集会場の安全面を配慮したルール──ギルドレベル到達不足で、まだアラタ達には受注できなかったからだ。
駆け出しの二人が選べるのはギルドレベル一のクエストだけだったのだが、選べるクエストはどれも簡単そうだった。当然、歯応えを求めていたアラタは、やる気が起きなかったのだが、ルールなら仕方なく、その中でも一番マシな『スライム討伐』を受けたという訳だ。
「わかってるよ。でも俺は剣がいいんだ!」
リコの忠告を遮って、アラタは自分の夢を叶えていこうとする。
剣と言っても武器庫には何十という種類があるのだが、アラタは一切の迷いもなく、一本を選んだ。理由は自分の心が惹きつけられたからだ。
「なんか良い! しっくりくるぜ」
俗にブレードと呼ばれる剣の握り心地を確認し、アラタはこれを貰おうと決断する。遺伝子レベルの違いか、女のリコには男のロマンという非論理的な考え方は理解してもらえず、呆れた眼差しを向けられた。
それを華麗にスルー。リコも特に気にする様子はなく、二人は武器庫を後にする。
またも熱い職場を通り、今回の本題──クエストへと出発する為に、家を出て行こうとした時、彼女の父親が声をかけてきた。
「おー、オメェ、それを選んだか!」
「えぇ、目に止まったもので……」
「オメェ、見る目あるな! それは昨日できたばかりのオラの自信作だべ。握り心地、切れ味、重量感。どれをとっても最高の剣だ」
よほど気にっているのか自慢げに語り出す。アラタとしては、本当に心を奪われて取っただけだが、一流の職人から見る目があると言われてとても嬉しい気分になった。
「気に入っちまったから名前まで付けたんだが、聞いてくか?」
よほどセンスのある人に出会えて嬉しかったのか、彼女の父親は饒舌になる。それを見て、
「パパ!」
「わかったべ。気をつけてな」
今の言葉でショボンとした表情を見せて仕事場に戻る。そんな彼に、
「名前、聞きたいです!」
アラタとしても剣に名前があった方がしっくりくるし、カッコいいと思った為、彼の話に食いつく。アラタの姿を見て、「本当男ってのはよくわからないわ」と、二人に呆然とした感情をリコひとり描いていた。
リコの気持ちなど知らない二人は男の世界に入り込み、重要な話し合いをするかのような真剣な眼差しを向け合っていた。
「名前は……『
「『
それがアラタの第一の感想だった。
響きもそうだが、神話上の生き物に抗えるようにという意味合いの方も最高だ。異世界であれば神もいるかもしれないので、本当にそういった事も出来るかもしれない。
もらった剣に視線を移し、「よろしくな!」と口の中だけで呟く。その後、
「ありがとうございました。俺、『闘神』が活躍できるように頑張りますよ」
「おう! そうしてくれるとオラとしても嬉しいべ」
店主と握手を重ね、男同士の会話は終了する。
「はぁー、恥ずかしい」
自分の父を見て、そんな感情を抱いたリコ。その後、父親の「頑張れよ!」という励ましの言葉を聞きながら、二人はクエストへと向かっていったのだった。
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