第三話 パーティー結成

 メイア達とクエストにいけなくなったアラタは仲間集めに勤しんでいた。理由は、アリスが過去(男に陵辱された事をを思い出したため)の事で発作が起きてしまったので、約束していたメイアが彼女の看病をしなくてはならなくなったからだ。


 メイアは「ごめんなぁ」と言っていたが、理由があるのであれば仕方がない。


(はぁー、やっぱ難しいんだなー)


 集会場にいる人達に声をかけても「悪いな。俺達は間に合ってるんだ」や「ごめんね。昨日なら空いてたんだけど」などと言われてしまった。


 とても残念な結果だが、相手にも都合があるのでこればかりはどうしようもない。


 もう少しだけ頑張ってみたのだが、他の人達も仲間と仲良くやっているし、その中に入っていくのはとても気が引けたので、もう仲間集めは諦めてひとりでクエストへ行く決心をつけた。


 まずはクエストの受注だ。そう思い、クエスト版の前に行こうとしたが……


(あれ? あの人ひとりなのかな?)


 怪しい態度で辺りをキョロキョロする女がアラタの視界に入る。


 これはマルチの夢が叶うかもしれない。少しだけ希望が見えてきたと思うと、アラタは女の子の方へと寄って行っていた。


「あ、あのー」


 突然声をかけられた女は肩を上下に動かした後、アラタの方へとゆっくりと振り向き、目を細めて睨みつけてきた。いきなり失礼な事をしてくる女にアラタは少しだけ嫌な気分になったが、女は「すいません」と言って机の上に置いてあったメガネを取ってかけていく。


 メガネをかけ、全貌が明らかになった彼女にアラタは胸がキュンとした。


(受付の女性くらい可愛いじゃん)


 茶髪のストレートロングに長身。にじみ出るクールな雰囲気からはできる女感が漂ってくるが、服装は意外とラフで話しかけやすい人物だ。


(こっちの世界にもTシャツとかあるんだ……)


 アリスやメイアがオシャレだったので、ついあれが女性のデフォルトだと思っていた。


「どうかされました?」


「いえ、なんでも。もしよろしかったら、一緒にクエストどうかなぁーって思っただけです」


 彼女のなりをみた途端に無意識に敬語になってしまっていた。しまいには声も少し震えていて恥ずかしい気持ちにもなった。


「ごめんなさい。先客がいるんです」


「そうですか」


 ことごとく粉砕!心の中で泣いている。


 しかし、強制はできないので諦めよう。最後の希望だったので残念な気持ちでいっぱいだが……


 これで踏ん切りはついたので当初の予定通りひとりでクエストに向かうとする。


 まずはクエストの受注だ。クエスト版の前までとぼとぼと寂しく歩いて行く。すると……反対の方向から金髪にピアス、派手な服装とド派手な格好をした男が「待った?」と女性の方へと近づいて行くのが見えた。


 どうでもいい事だが、どうしても気になったアラタは二人の方へと視線を持っていってしまう。


「えぇ、今日はありがとうございます。まさかニッチさんと一緒にクエストに行けるとは思ってませんでしたから光栄です」


「まぁ、俺がいれば百人力よ! ってか、ゴールドの俺とクエストに行ける奴は選ばれた奴だけだし。まぁ、若くて美人な女としか行かないけどね! ハハハ!」


 今の言葉で女の方は苦笑い。男は女の肩をポンと叩き、二人は集会場を後にして行こうと出発する。


 一部始終を見てしまったが、アラタにはもう関係のない事なので、クエスト版の方へと向かっていく。


「どれにしようかな……」


 かなり種類があるので迷ってしまう。どうせなら少しだけ腕の立つクエストに挑戦したいと思い、『キングビーの巣の駆除』というクエストを選ぼうと手を伸ばした時……


「キャー!」


 空をも切り裂くような甲高い悲鳴が聞こえてきた。声自体は高かったが、聞き覚えのある声だったのでアラタは急いで外へと飛び出していった。が……アラタの視界には衝撃的な光景が広がっていた。


「ふざけんな! 俺の誘いに乗ったって事はオーケーって事だろ!」


「助けて! 誰か助けて!」


 ニッチと呼ばれていた男が女の手を無理矢理握り、どこかへと連れて行こうとしている。


 誰が見ても女が襲われている光景だったのだが、彼が最高ランクのゴールドカードを持っているからか、周りにいる人達は一向に助けようとしない。


(くそ! 気持ちはわかるけど……)


 現実でこのような現場に遭遇した場合、アラタとて周りの人と同じ行動をするのだろう。だが……


(やっぱ無理だ!)


 力があるなしに関係なく、目の前で困っている人をアラタは見捨てる事ができなかった。


「やめろよ」


 ニッチの肩を掴み、声をかける。ただそれだけの行為に、ニッチは舌打ちをしてアラタの手を思い切り跳ね除けた。更には「お前誰?」と見下すような表情でアラタを見てくる。


 恐怖もあったが、アラタはニッチに対抗するべく睨み返していく。


 その行為が癪に触ったのか、ニッチは遂にアラタに手を上げた。あまりに不意の出来事で、反応できなかったアラタだったが……彼のスキル──『防護壁ディフェンダー』がオートで発動した。


「ハハッ! そうくるか。なら俺もそれなりの事をしても許されるよな!」


 今の現象は冒険者であるニッチにはなんの驚きにもならなかったらしい。そんな彼に「やってみろよ」と強気に返してビビっている事を外見に出さないようにする。


「くそが! 調子に乗ってんじゃねぇぞ! 雑魚が!」


 プライドが高すぎるニッチは、今の挑発で頭に血が上り、自身の魔法を展開。指を鳴らした途端に、彼の指先に大量のエネルギーが集約される。


(防げるのか? この魔法で)


 正直、この力の使い方は熟知していないので恐怖の方が大きい。だが、今はこれしか対抗手段がないので自分を信じていく。


 恐怖で動悸が早まり、冷や汗も出てくる。それを見てニッチは、


「テメェは俺を怒らせた数少ない冒険者だ。そして、唯一生きてる人間でもある。この意味がわかるか? 俺に逆らった奴は女だろうが全員抹殺してるんだよ。このオレこそがこの世界で唯一のゴールドランクの人間! つまり……一番最強ってわけだよ!」


 そう言って人差し指の先に集めたエネルギーをアラタに向かって発射した。


 視界全てが光に包まれ、目を開けているのも難しいくらいだ。それは辺りにいる全ての人達も同じで……一切の反応ができないまま、アラタはエネルギー波を正面から受けた。


 辺りが沈黙に包まれ、光も少しずつ引いていく。


「そんな……」


 二人の戦いを見ていた野次馬の男が魂の抜けるような声を出し、目の前の結末に息を呑む。だが……誰も倒れているものはいなかった。むしろ、ニッチと呼ばれていた男が、先程までの余裕顔を消し、恐怖に怯えている表情をしていた。


 理由は簡単。先程の魔法がニッチの足元の地面を抉り、もう少しで自死の道へと導かれるところだったから。


「テメェ! 何しやがった!」


「さぁ? 答える義務はねぇな」


 強気で言い返していくが、


(えっ! 本当に何が起きたの! なんかよくわからんが助かった!)


 自分でも意味のわからない現象が起き、アラタは心中でパニックを起こしていた。しかし、それを悟られるのはマズイ。直感でそう思ったアラタは、


「もう一度食らわせてやろうか? 今はわざと外してやったが、今度は直撃させてやるよ」


 指を突きつけてそう宣言する。


 アラタの言葉に、「ひっ!」と間抜けな声を出しながら尻餅をつくニッチ。更に追い討ちをかけるようにアラタは一歩足を踏み出す。それだけで、「うわぁぁぁ!」と悲鳴を上げながら、ニッチは急いで立ち上がりながら間抜けな格好で逃げていった。


 ニッチを撃退したアラタは周りの人達から賞賛の拍手喝采を浴びる。少し恥ずかしかったアラタは、「どうも」とだけ言い、この場を後にして行った。


 とりあえず人混みを避けたアラタは状況を確認しようとステータスカードを開いた。



 サイトウ・アラタ

 ギルドレベル1

 職業:冒険者

 装備:なし

 魔法:『防護壁ディフェンダー(物理攻撃のみ有効)『反射カウンター(魔法攻撃のみ有効)』



(あれ? まただ……)


 ステータス画面を見て、もうひとつ力が増えている事に気がつき、


「これ、どういう力なんだ」


 これを知っておかなければ、せっかくの力も上手く使用していく事ができない。先程のニッチ戦ではなんとか助かったが、すぐに死んでしまうだろう。


 力の正体を知る為に、足らぬ頭で懸命に熟考していく。


(────まさか!)


 異世界知識をフルに活用し、アラタはとんでもない答えに辿り着いた。それは……魔法が増えていく力というもの。それに、メイアとニッチとの戦いでの魔法の増え方の共通点を見ると、自分がピンチになった時に力が付与されるのだろうという答えまで導き出せた。


(ちょっとダセぇな。けど、俺にとっては好都合なのかもな)


 力の詳細もわかった事だし、やり忘れていたクエスト受注に戻ろうと集会場に向かおうと思った時……ふと後ろから声をかけられた。声の主は先程の女だった。


「助けていただきありがとうございます」


「これくらい朝飯前だよ。君が無事でよかった」


 この世界での立ち回り方もわかり、上機嫌のアラタは饒舌じょうぜつになる。


「じゃあ、行くね。さっきの男のようなのには気をつけるんだよ」


 女に忠告し、目的を果たすために集会場に一旦戻るため、歩き出す。しかし、


「あのー」


 女性が声をかけてきた。それに振り返るが、彼女は少しだけモジモジして恥ずかしがっている。何か伝えたいのだと思ったアラタは彼女の懸命な姿勢に耳を傾けていく。


 アラタの行動に勇気ををもらったのか女は決意を固め、手を伸ばして頭を下げる、そして、


「もし宜しかったら、私と一緒にクエストに行きませんか!」


 こうして、アラタは初めてのパーティメンバーを得たのだった。

 

 


 

 

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