第二話 念願のギルド

 憧れの場所を前に、アラタは子供のように目をキラキラさせていた。いつもバーチャルで見ていた世界が現実のものとなっている。彼としては興奮せざるを得ない。


「じゃあ、向こうで待ってるよ」


 ピンクのストレートヘアの女──メイアがアラタに言い、別の所へ移動していく。


 受付と思しき所へ行く前に、ステータスを展開して、先程考えられなかった魔法について考察していこうとする。


(なんで魔法が増えたんだ……)


 ピンチ、特殊条件を達成など、ありとあらゆる可能性を考えたが、あの場面で増える理由がわからない。こんな回りくどいやり方をするのであれば、最初から付与しておけばいいのだ。彼女達が言っていたステータスカードの件も気になるし。


 解決策が見つからないので、この件はまた後でゆっくり考えるとして今は手続きの為に、受付へと向かった。


「あのー、冒険者としての手続きをお願いします」


「はい! 手続きですね」


 アラタの呼びかけに、聞いているだけで癒しを与えてくれる落ち着いた声を出しながら、ひとりの女性が振り向いた。


 黒髪のストレートロング。意外にも長身で、露わになった面差しには左唇の下にホクロもあり、かなりセクシーな人物だ。


 現実でも滅多にお目にかかれない美人を前に、アラタは呆然としてしまう。


「どうかされました?」


「いえ、あまりにお綺麗だったもので……つい」


「あらまぁ、お上手ですね。では、本題に入りましょう」


「はい」


 女性が魔法石に手をかざし、手続きをしていく。すると、ステータスカードと同じようなモニターが第三者にも認識できるように現れる。


「あれ? すでにステータスカードはお持ちのようですね」


 女性がアラタのカードを発行しようとして驚きを見せる。それに、「はい、一応カードは持ってるんです……」と答えた。


 カードが増えた理由は謎だが、本来ならここで発行してもらわなければならないみたいだ。


 アラタの問いを聞いた後女性は、


「では、カードをアップデートします。こちらに」


 と、言ってきたので、その指示にしたがって自分のカードを取り出そうとするが……


「カードってどうやって出せばいいの?」


 声に出し、自分で確認する方法しか知らないし、データとして保存しかしていないので物的なものは一切ない。


 アラタがどうしていいか困っていると、女性は丁重に教えてくれる。


「こちらの魔法石に手をかざしていただければ、自然と行われますのでご心配なく」


 彼女の説明で容量はわかったので、言われた通りに手をかざす。


 突然、視界が遮断されるくらいの光量がアラタを包み込む。何事かと思ったが、光は数秒で霧散むさんし、いつも通りの視界を取り戻す事ができた。


「アップデート完了です」


 女性の言葉を確認するかのように、ステータスカードを展開してみせる。



 サイトウ・アラタ

 ギルドレベル1(白色)

 職業:冒険者

 装備:なし

 魔法:『防護壁ディフェンダー



「あのー、このギルドレベルってのはなんですか?」


「これはいわばランクですよ。ランクは一から十まで存在しており、それぞれが色分けされているのです。登録したばかりなのでアラタさんは白、つまり、一レベルからの開始となるのです」


「そうですか」


 説明を受けてアラタは納得し、女性にお礼を言った後、この場を後にする。


「おーい、メイア」


 ギルドに来る前に約束していたパーティを組むために、ピンクのストレートヘアの女性を呼ぶが、どこを見渡しても見当たらない。その代わり、アリスと呼ばれていた金髪の女性が目に止まったので、彼女に声をかけた。


 無視をされる。


「聞こえなかったのかな?」


 自分の声は小さいため、そう解釈して、今度は近くに寄って行って声をかけた。


 またも無視。触れられるだけの距離での行為に、意図的に行ったのだと理解したアラタは、


「おい! 無視すんなよ!」


 アリスの肩に触れて怒声を上げてしまっていた。


「触らないで!」


 手を思い切り跳ね除け、怨みを募らせているかのような目線で睨みつけた後、アラタの前を去って行った。


「くそ! 何なんだよ!」


 何もしていないのに、酷い仕打ちを受けた事に苛立ちを覚えるアラタだった。



 アラタから離れ、外へと飛び出してきたアリスは嘔吐していた。先程の一部始終をたまたま遠くから見ていたメイアが、アリスの後を追ってきて近くに寄る。


「大丈夫?」


「えぇ、私にしては耐えた方よ」


「アリスが男を苦手になるのは仕方ないやん。あんな事があったんやから」


 自分とアリスが男に陵辱されていた時の事を思い浮かべる。


「メイアはよく平気でいられるよね」


「──ウチは……無理してるだけ。全ての男があの下衆野郎と同じってわけやないから」


「それでも私の心と体は弄ばれた。なんで私がって思ったよ……ゔぇぇぇぇ」


「アリス!」


 その後もアリスは嘔吐で何分間も苦しみ続け、結局アラタと一緒にクエストに行く事はできなかった。

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