其ノ三 雷鳴

 安子様は一瞬、はっとひるまれたようなご様子でしたが、何かのものにでも取り憑かれていらっしゃるのか、この時はもう、人とも思われぬほど強い邪悪な眼差しで、こちらのほこらの方を睨みつけるだけに御座いました。


 私は、これではいけない、このままでは安子様がこの怪しいものさらわれておしまいになると思い、遂にこれ以上無い強い口調で、安子様に言葉のつぶてを投げ付けたので御座います。


「愚か者! 

 そなたがそのように御自分のお命を粗末にするのであれば、私が、その赤子あかごさらって行きますよ。それでよろしいのか。」


 私は、安子様に取りくこの強いものに対抗する為、渾身の力を集めて雷鳴を呼び、激しい稲妻と共に、近くのけやき巨樹きょじゅの上に落としたので御座います。

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