其ノ十九 笑顔

 赤子あかごは、もう充分に乳を飲んだのか、乳房から手を離し、満ち足りたお顔で、にっこりと安子様のお顔を見上げたのでした。


 ああ、何という愛らしい笑顔、小さい小さいお手々ててゆうや、この手でしっかりと幸せを掴み取るのですよ、安子様は心の中でそう祈らずには居られませんでした。


 その時に御座います。


 がらがらと産屋うぶやの木戸を開けて、御夫君ごふくんと、何やら筒の様な物を大事そうに抱えた義母の奥方様おくがたさまが、どやどやと産屋うぶやに入って来られたので御座います。


「まあ、何と愛らしい男の子でしょう。お昼に産気付いたと聞きましたから、明日になるかと思って居たら、まあ早かった事。お産が軽くて良かったわねえ。」


 奥方様おくがたさまはそう仰ると、安子様の腕から、赤子あかごを奪い取る様に引き離すと、御自分の腕に抱き、ばあ、ばあと満足そうに、首の座らぬ産まれたての赤子あかごの体を揺らしたので御座います。

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