其ノ十一 辛抱

 理不尽極まりない大奥(PTA)を変える、もしくは無くすと言う事は、もしかしたら正しい事なのかも知れないけれども、一旦きばを剥き出し、歯向かって来る人間だと思われたなら、愛して止まない我が子にこの先、どのような災いが降りかかるか知れない。それが分かっていて、たった数年の辛抱と思ってやり過ごす以上のことを言い出す勇気のある御母御おははごが、実際どれだけ居るものだろうか。


 父は稚児医者ちごいしゃ(小児科医)として、これまで沢山のおさの命と向き合って来ては居られるが、基本、家の事や子育ての事は私の亡き母に任せ切りで有ったので、実際にはあの大奥(PTA)に足を踏み入れた事は無く、あの恐ろしい同調圧力の魔物の姿を目にされた事が無いのだから、本当の所はお分かりにはならないのだろう、常磐井ときわい様はそうお思いになったので御座います。


 その時、

「あ、これは。何ですか?」

 生来が明るい御性分で有られるおりんさんは、こうした重苦しい空気にはどうしても慣れず、何か風穴かざあなを開けようと思われたのか、診察室の薬棚の上に有る一つの愛らしい置物を指差し、こうお尋ねになりました。


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