其ノ十八 石段

「はやく、はやくう! 出ちゃうよお。」

 花子様は早くかわやに行きたくて、握った太郎君たろうぎみの右腕を引っ張ってお庭を突き進もうとなさいますが、太郎君たろうぎみは左手に持った手燭てしょく蝋燭ろうそくが倒れてはいけないので、そんなに早くは進めません。


「落ち着いて、ゆっくりゆっくりお歩きよ。」

 太郎君たろうぎみはそう言って花子様をたしなめると、手燭てしょくを前にかざし、

「ほら、見てごらん? あそこの手水鉢ちょうずばちの水に、お月様がまん丸に映って居るよ。」

 と、花子様のお気がれる様な話題を持ち出しました。


「ほんとだあ。お月様のうさぎさんまでお湯に入ってる。」

 と仰って、花子様は少し御機嫌を直されました。


 お二人が更に少しお庭を進みますと、土間どまの外のひさしの下に、炭をおこすための焚き付け用のまきが積んで有り、かわやはそこを抜けて直ぐの石段を三段上った所に御座いました。

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