其ノ十六 三丁目

「あれ、何かきな臭く無いかい?」


 おりんさんと常磐井ときわい様は御自宅が近いため、安子様と別れた後、同じ方向に向かって歩いていらっしゃったのですが、川を少し下った三丁目の方角から、何やら焦げ臭い様な匂いが流れて参りましたので、提灯ちょうちんをかざして目視された所、やはり煙の筋が一本立ち上っておりました。


「三丁目……。安子様のご自宅の方角。安子様は、身重みおもの安子様は大丈夫なのでしょうか?」

 常磐井ときわい様がこう仰るとおりんさんは、

「そうだよ、こうしちゃあ居られない。あたしは急ぎ二丁目の火の見櫓みやぐらに行って火消しの兄貴に伝えるから、あんた、安子さんの所へ行って様子を見て来なよ。」


「そ、その通りね。分かりました、急ぎましょう。」


 常磐井ときわい様はそう仰ると、おりんさんと別れ、取るものも取り敢えず、暗闇の中一人、三丁目の安子様のご自宅の方角に向かって走り始めたので御座います。

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