其ノ十五 次の橋

 橋のたもと常磐井ときわい様とおりんさんと別れた安子様は、川沿いの小径こみちを六町(約600m)ほど進んだ次の橋を、左に曲がって少し行った所にある御自宅へと、一人早足はやあしを進めておられました。


「ふうう、流石にここのつきともなれば、早足はやあしは息が上がりますね。でも、太郎と花子が心配です。急がなくては。」


 安子様は左手に提灯ちょうちんを持ち、右手で御自分の大きなお腹を優しくさすると、注意深く提灯ちょうちんで御足元を照らしながら更に歩みを進められ、次の橋まであと二丁(約200m)の所まで参りました。


 その時に御座います。


「何でしょう、このきな臭い匂いは……。」


 安子様は、転ぶまいと御足元を照らして居た提灯ちょうちんを、御自分の目の高さまでかかげ持つと、ご自宅の屋敷のある方角に、細く一本、煙の線が立ち上って居るのを見て取られたので御座います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る