其ノ四 寝かし付け

「そのことで御座いますけれど……。」

 と安子様が仰りかけますと、

「この様な夜分、提灯ちょうちんの灯り一つで数え三つの子供を連れ歩くのは危なかろう。花子はもうこうして眠ってしまって居るし、太郎じゃまだ護衛にも成らんだろ。わしが二人を見ておこう。」

 御夫君ごふくんはそう仰いました。


「有難う御座います。そうして頂けると大変助かります。」

 安子様は頭を下げて御夫君ごふくんにお礼を述べられました。


「なあに。もう飯も出来ているし、あとは子供らを寝かせるだけだろう? 容易たやすい事だ。」


 幼いお子を二人寝かし付けるのが、果たして容易たやすい事なのかどうか……、安子様はこの言葉が喉元にまで出掛かりましたが、言えばややこしくなるだけの事。ここは旦那様がせっかく見て下さると仰っているのだから、気持ちよくそうして頂く事が何より先決であろう、安子様はその様に思い直されたので御座います。


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