其ノ二十七 提灯

 常磐井ときわい様は、こう仰います。

「昨今は昼間、満日まんじつ(フルタイム)で働くおなごも増えて来て、大奥(PTA)のお集まりも夜になってしまう事が多くてね。上の健太郎の時にも、幾度か夜のお集まりが御座いました。夜は寺子屋も閉まって居るから、茶屋(ファミレス)を借りたり別の場所でやる事も多い。それにしてもおでん方様かたさまもお人が悪い。先程、御広座敷おひろざしき(多目的室)に皆が居る時に、次のお集まりの刻限と場所をご相談下されば宜しかったのに。」


「いいや、そんな事をしたら、我々から異論が出ちまうから、わざわざこう言うき(メモ)を御納戸役おなんどやく(用務員)に渡したんだろうよ。有無を言わせないやり方でさあ。」

 おりんさんはこう切り返されました。


 そのやりとりを伺いながら安子様は、確かに、御吟味方ごぎんみがた(選出委員)取締とりしまり(委員長)を決める初顔見世はつかおみせの時分に、先の御吟味方取締ごぎんみがたとりしまり荻野おぎの様が、取締とりしまり(委員長)には御会合の日取りを率先して決められる御役得おやくとく(メリット)が有る、と言うお話をなさっていた様な、と思い出されました。


 しかしながら、安子様のお子様二人はまだお小さく、神無月かんなづき(10月)と言えばここのつき(九か月)で、更にお腹も大きくなって来る時期。夜の暗い時分に提灯ちょうちんの灯り一つで、如何様いかようにして新川 西の蔵の御会合に出席する事が出来ましょう。そのように思案で心が重くなる安子様で御座いました。



次章に続く

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