其ノ十四 御鋏

 御三役ごさんやくを除く御吟味方ごぎんみがたの面々は、御座之間ござのま(PTA会室)での御作業のため、御広座敷おひろざしき(多目的室)から御移動されました。


 途中何人か、止むを得ない御用が有るとの事で抜けられる方々がおりまして、御座之間ござのま(PTA会室)に着いた時には、安子様、常磐井ときわい様、おりんさんを含む十数人となっておりました。そして、大人方おとながたの後ろには花子様と、どなたかのお子の、花子様と同じくらいの年頃の小さなおなごも居り、御母上方おははうえがたを追ってちょこちょこと可愛らしく付いて行かれます。


嗚呼ああ御三役ごさんやく御目おめが届かないと思って、用事か何だか知らないけど、皆バタバタ帰っちまうなんて、こっちだってやってられないよ。」

 おりんさんがその様に文句を言い始めますと、

「まあまあ、本当に御用が有るのかも知れませんし、どなたかがやらねば終わらぬ事。愚痴を言って居ても始まりませんよ。ほら、早速御作業を始めませんと。さあさ、藁半紙わらばんし謄写版とうしゃばん(ガリ版)は何処かしら?」

 と、常磐井ときわい様がおたしなめになりました。


 御座之間ござのま(PTA会室)の違棚ちがいだなには、大奥(PTA)の歴史を物語る瓦版かわらばん(広報誌)やら、秘伝の書類等が多数保管されており、中央にある大きなだい(作業台)の上には、多くの作りかけのふみなどが積まれておりました。

 さらに、だいの上には大人用の大きな御鋏おはさみ、紙を切り分ける小刀こがたな(カッター)、まだ乾いて居ない洋墨ようぼく(インキ)がたっぷりと付いたままの謄写版とうしゃばんの回転棒(ローラー)、蓋が開いたままの洋墨瓶ようぼくびん(インク瓶)等のお道具が、無造作にばらばらと置かれておりました。


 その様なお道具たちを目にして、小さいお嬢様方が大人しく見て居られる筈も御座いません。

 「はなちゃん、このおはさみでちょきちょきするの。ね、よっちゃんもやりましょうよ。」

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