其ノ十二 謄写版

「只今、御右筆ごゆうひつ(書記)どのに御読み上げ頂いた窺書うかがいしょ(アンケート)を、御父母方全員にお配りし、これ成る由緒正しき目安箱めやすばこに御投函頂く、とまあこう言う次第に御座います。」


 おでん方様かたさまはお続けになられます。

「まあ、しかれども九名ものお役、例年簡単には御手おてが挙がるものでは無いものと伺っております。特に、我々三役と御右筆ごゆうひつ(書記)、勘定方かんじょうがた(会計)のお役付きの面々は、最低でもそれぞれお一方ひとかた、ご自分の伝手つてでお役をお決めになられますよう、お心にお留め置きくださりませ。」

 おでん方様かたさまはこのように、お役付きの方々にお割当て(ノルマ)を言い渡されますと、安子様と常盤井ときわい様の方へ目線をお送りになられました。


 お役付きの者は最低でもお一方ひとかたは、各々の伝手つてで大奥(PTA)取締方(本部役員)を決めねばならぬとは……。この地に越してきて間もない安子様にはそのようなお心当たりなどお持ちの筈もなく、左様なお割当て(ノルマ)を一方的に課せられましても、と不安でお気が遠くなるような心地で御座いました。


「では、本日我々三役さんやくはこの後、大奥(PTA)御目見得以上惣触おめみえいじょうそうぶれ(運営委員会)のお集まりが御座いまして、上様(会長) 及び 大奥総取締おおおくそうとりしまり(筆頭副会長) などの方々に謁見えっけんする運びとなっておりまする。」


 御三役ごさんやくがたは別の御会合に出向かれるそうな。それでは、本日の我々の御会合はここ迄で、我々は帰宅する事が叶うのでしょうか、と安子様は思いになられました。安子様は本日、お小さい花子様をお連れであり、八月やつき身重みおもで、残暑厳しき折、御体調もあまり優れぬ為、そうであって頂きたいと内心お思いになるのも、至極しごく無理無き事に御座います。


「して、皆様に置かれましては、この後、御座之間ござのま(PTA会室)にて、謄写版とうしゃばん(ガリ版)をお使いになり、この御窺書おうかがいしょ(アンケート)を寺子屋の御家族数、約五百枚お刷りになり、組毎くみごとにお分けした後、お師様方控之間しさまひかえのま(職員室)にお届け下さる様、宜しくお願い申し上げまする。」

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