其ノ十一 御推挙

 成る程、この様にして、出来る限り自ら御手を上げられたお方にお役を勤めて頂く、それが一番佳き事に相違あるまい、しかし九名までの御有志、この窺書うかがいしょ(アンケート)にて募るのみで、全てが埋まるとは到底考え難いのでは有るまいか、安子様がそのようにお考えを及ばせていらっしゃると、


「さ、御右筆ごゆうひつ(書記)どの、続きをお読みなされ。」

 と、おでん方様かたさまは安子様に促されました。


―――――――――


 但し、し御立候補無き御役目おやくめ有らば、皆々其御役そのおやく相応ふさわしき御仁ごじんを以下にて必ず一名御推挙ごすいきょの事、これ大奥(PTA)さだめにて、以下欄に推挙さるる御方の組、御芳名、必ず御記入有る様、御願いつかまつり候。


一、

我、此度こたびは立候補はなはだ難しき事情之有これあり、以下の御方、御推挙ごすいきょ奉り候。


__年__組 御芳名_____様


御推挙之理由(御任意御記入可)

(                           )



                    __年__組 御芳名_____(御記名之事)



以上。


―――――――――


 嗚呼ああ、これでは、またしても御無理な事情を押して、望まぬ者が御役に就けられてしまう事態が起こるのでは有るまいか。ご自分以外の者の名を書き、御推挙するこの御制度、寺子屋の親御おやご達の間に要らぬ禍根を残す物に相違無かろう。

 安子様は嘆息と共に御自分の身重みおも御腹部ごふくぶをお触りになられると、お腹の御子が、何か訴えたき儀でもお有りになるかの如く、ぐるりと一つおまわりになったので御座います。

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