其ノ八 目安箱

「さて、御吟味方ごぎんみがた(選出委員会)、第二回の会合を始めさせて頂きます。こちらに御座いますのは。」


 おでん方様かたさまが、ご自身のお足元に鎮座する、歴史りたるおもむきの一つの古い木箱を御手でお示しになられますと、本日も洒脱な色柄のお着物に身をお包みなられた御吟味方ごぎんみがた取締御後見とりしまりごこうけん(副会長)の大典侍おおすけ様とおとみ様が、まるで阿行吽行あぎょううんぎょうの像の如き仰々しさで、お箱を両側からお守りになっていらっしゃいました。


 その古めかしくもおもむきのある桐箱は、八つのかどは丈夫なはがねの金具で補強され、中央の留め金の部分には、葵の御紋を鋳造ちゅうぞうした堅牢な錠前じょうまえが、何人なんぴとの解錠も許さぬ風情で下がっております。そしてそのお箱の正面には、経年で滲んだ筆で、大きく三つの文字が書かれて居りました。


「こちらに御座いますお箱は、大奥(PTA)に代々伝わって参りました、由緒正しき目安箱めやすばこに御座います。」


目安箱めやすばこ……?」


 それをご覧になった御一同は、その物々しさに圧倒され、御広座敷おひろざしき(多目的室)中がざわめきに満たされたのでございます。



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