其ノ二十二 誤解

 さて、時は半刻はんとき(1時間)と少し程遡さかのぼることに致しましょう。


 以前、牧野の奥方様おくがたさまぜにを盗んだと言う疑いをかけられ、その誤解を解く為に、朝方奥方様おくがたさま宅をお尋ねになった初島はつしま様は、偶然青梅を齧って苦しむ花子様を見かけてお助けし、常磐井醫院ときわいいいんにお運びになり、花子様のお母様の安子様が醫院いいんに駆けつけましたので、今度は牧野の奥方様おくがたさまのご様子を見なければ、と来た道をお戻りになっておりました。


 花子様のご様子に気が動転してお倒れになってしまった牧野の奥方様おくがたさまは、その時分にはもう御自分でお起きになることが出来、どうにか体調も持ち直しておりました。


奥方様おくがたさま初島はつしまに御座います。お加減は如何でしょうか?」

 諸事しょじわきまえの有る女中の初島はつしま様は、丁寧にかしこまりつつ門前から奥方様おくがたさまの寝ていらした縁側近くの和室に向かってお声がけをされました。


「ああ、初島はつしまかい? 初島はつしまが戻ったのかえ?」

 玄関の方から、奥方様おくがたさまが返事をするお声が聞こえました。

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