其ノ十四 昼顔

 御鷹狩おたかがり(運動会)御手伝いの日、六月みなづき廿六日にじゅうろくにち、当日と相成りました。いつ雨粒が落ちて来るかも分からぬ様な、どんよりとした曇天どんてんに御座いまして、安子様はこれでは明日の御鷹狩おたかがり(運動会)が無事行えるものかどうかとご心配になられました。


 寺子屋の御鷹場おたかば(グラウンド)に御集合との事でしたので、安子様がそちらに足を運んで見ますと、太郎君たろうぎみと同じ新入学のお子様方が、卯月うづき(四月)の御入学後間も無くに種を植えてから、手塩てしおにかけて育てて参りました朝顔の鉢々が並んで居るのが目に留まりました。そちらは今はほんの小さなつぼみを付けて居るばかりで御座いましたが、その後ろの竹垣に、植えても居ない昼顔がつるを回し、一足お先に桃色の小さく可憐な花々をぽつぽつ咲かせて居るのがまた、おもしろい景色に御座いました。


「あ、またお会いしましたねえ。」


 安子様はどなたかにお声を掛けられて昼顔から目線をお上げになりますと、そこには丈立たけだちの高い常磐井ときわい様が、すっと立って居られました。


常磐井ときわい様も、鷹狩たかがりお手伝いに御座いますか?」

 安子様がお尋ねになりますと、

「ええ。息子が文をもらって来ましてね。それはそうと安子様、本日御作業も有る様ですが、お小さい方々は如何いかがなされましたか?」

 と、常磐井ときわい様は心配されてこう仰いました。


「本日は土曜に御座います故、主人はおもて(会社)がお休みでして、花子も太郎も主人に預けて一人でこちらに参る事が叶いました。」

 安子様はそのようにお答えになりました。

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