其ノ六 燧袋(ひうちぶくろ)

「ええと、水屋箪笥みずやだんすはと……。こちらですね。」


 安子様はお一人でくりやまで行かれると、水屋箪笥みずやだんすをお見つけになりました。歴史ある黒光りしたその棚は、上半分うえはんぶんには丸い引き手のめ込まれた片開かたびらがあり、真ん中辺りに二つ抽斗ひきだしがありました。安子様は奥方様に言われた通り、菓子切かしぎりを探そうと右側の抽斗ひきだしを引くと、意外なものがお目に止まったので御座います。


「これは……。朱色の燧袋ひうちぶくろでは御座りませぬか。」


 先ほどお話の中で、お義母かあ様が御女中に盗まれたと仰っていたのは、確か朱色の燧袋ひうちぶくろだった筈。水屋箪笥みずやだんす片開かたびらの方にしまって居られたとの事でしたが、今、抽斗ひきだしの中に入っているのも同じ朱色の燧袋ひうちぶくろ


 安子様は、これはもしやと思い、中を検分しようと恐る恐る丸い巾着型の燧袋ひうちぶくろの紐を緩めました。

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