其ノ十六 三役揃い踏み

 おとみ様が二人目の取締御後見とりしまりごこうけん(副委員長)にお決まりになれば、ようやっと三役揃さんやくそろみと相成る訳で、一刻も早くお役を終えたい荻野おぎの様は、より一層声を高くして申されます。


「まあ、素晴らしきこと。仲の良いお三方で御三役ごさんやくのお勤めが叶うなど、何とたのしきことかな。のう、おでん方様かたさま、是非にこの方を取締御後見とりしまりごこうけん(副委員長)に。」


 荻野様はすがるような目付きでおでん方様かたさまに仰いました。 おでん方様かたさまはお答えなさります。


「ま、良いでしょう。おとみさん、共にこの一年、御吟味方ごぎんみがた(選出委員)御三役ごさんやく、勤め上げましょうぞ。」


 終始このやりとりをご覧になっていた安子様は、生真面目に細筆で懐紙かいしにお名前などめ書き(メモ)をなさりながら、本日もまた日暮れ近くまでお役決めが続くものと半ば諦めの御境地でいらっしゃりましただけに、此度こたびは御三役、いとするりとお決まりになりましたこと、誠に喜ばしく思われました。吹き矢(くじ引き)も無く御自おんみずから三人ものご有志に名乗り出て頂けるなど、なんと天晴あっぱれな心掛けで有ろう。きっとお心映えも優れたるお三方なので御座いましょう、と御推察なさるのでした。

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