其ノ十一 眉尻

「さて、それは如何様いかよう御役得ごやくとく(メリット)にござりますこと?」


 おでん方様かたさま詰問口調きつもんくちょうにたじろぎながらも、荻野おぎの様はお答え申し上げます。


御吟味方ごぎんみがた(選出委員)取締とりしまり(委員長)にお成りになれば、まず、これからの御会合の日取りを、率先して御提案する事が叶います。勿論、皆様の合意は必要な事ですけれども。」


「ふうん、それは成る程。」

 おでん方様かたさまは白い眉尻まゆじりをお動かしになり、高いお鼻を上下にしてうなずかれました。


「して、他に御役得(メリット)は?」


 先の御吟味方ごぎんみがた(選出委員)取締とりしまり(委員長)の荻野様に、矢継ぎ早にご質問を繰り返され、御吟味方ごぎんみがた(選出委員)取締とりしまり(委員長)のお役に御興味を持たれていらっしゃるご様子のおでん方様かたさまをご覧になりながら、安子様はこう思われました。とかく困難なこのお役決めという次第、ましてや重きお役目と皆に恐れられて居る御吟味方ごぎんみがた(選出委員)の、さらにその長であられる取締とりしまり(委員長)ともなれば、恐らくは大変重きお役目とお察しする。そのお役目に、率先してお手をお上げになって下さるお方は恐らく他にはお出になりますまい。もしこの御方に引き受けていただけたならば、これは大変有り難き事に御座いましょう。


 生真面目な安子様は、小さき文箱ふばこから歌がきの細筆を出して、懐紙ふおころがみに熱心に留書とめがき(メモ)をなさりながらお話を聞いていらっしゃいました。

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