其ノ二十 打掛

 晴れの寿ことほぎの場にふさわしく、お母御方ははごがたは色とりどりの搔取かいとり(打掛)に身を包んでおられます。春を象徴するはつれ雪に、ねじ梅紋様うめもんようをあしらった淡い金色の梅花雪輪取ばいかゆきわどりのお打掛うちかけを羽織られた方、めでたき吉祥きっしょうの御文様である青海紋せいがいもんの地に、菊や桜を描いた薄青色うすあおいろ菊花青海紋きっかせいがいもんのお打掛は目にも鮮やか、かと思えば、こちらは鮮やかなひわ色の地に、金箔の雲取くもどりを配した若々しいお打掛など、皆様さいを競っておいでになられます。


 そうした御衣装の女人にょにん方が色とりどりに数十人輪になられておいでなのですから、それはそれは華やかな御光景にございました。


 ご子息の件でお師様しさまに呼ばれ、お庭に出ておられました染子様も、この時にはもうお戻りになっておられましたが、御組取締おくみとりしまり(クラス委員)にすでにお決まりであるので、輪の中には加わりません。


 安子様が吹き矢の輪の中に入られようとした時、お小さい花子様を気にかけられた染子様が、

「どうぞ、行っていってらっしゃいませ。吹き矢の間、わたくしが抱いて居て差し上げましょう。」

 と仰って下さりましたので、安子様はお言葉に甘えて、花子様を染子様の御手にお預けになると、染子様に深く御一礼なさってから、輪の中にお入りになられました。



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