Part2

「…」


ユキとサラ、二人は集中した。


お互いが相手の出方をうかがっていた。


だがそんな中、サラに隙が生まれた。そこをユキは見逃さず、サラに向かっていった。


しかし、その隙はサラによる罠だった。そうとは気づかず、ユキは全速力でサラの間合いに入り、剣を振った。


「ハァっ!」


「…っ」


ユキの攻撃はサラには当たらず、サラは攻撃をかわしたと同時に、剣をユキの頸に、ギリギリ当たらない所で止めた。


「…」


サラの剣の速さにユキは追いきれず、その場で固まった。


「お姉ちゃんが、負けた…」


強いはずの姉が負け、ミユキは驚いた。たしかにユキは強い。だが分かるのは、その強さをサラが上回っていたという事だ。


「…剣の腕は良い、だが、これが実戦なら、死んでいるぞ」


「…完敗です」


ユキは、自分を強いと思ったことはないが、負けるのは、やはり悔しい。


サラに敗れ、ユキは悔しがった。


「やっぱり、サラさんは強いですね。勝てるとは思っていなかったですが、負けるとも思っていなかったので、悔しいです」


「ユキ、君が勝てなかったのは、人と戦った経験が少ない、あるいは無かったからだ。人と戦う時は、読み合いがなにより重要だ。モンスターと違って、ワザと隙を見せ、相手を誘うこともある。今のはまさにそれだ。経験がない故に、君は誘い込まれた。だけど、勘違いはしないでほしい。君は決して弱い訳ではない。経験がないから、この結果なだけで、知っていれば、君の勝ちだっただろう。君の剣の重みはホンモノだ」


「そう、ですか?」


「あぁ、読み合いがない場合ならば、君の勝ちだった。君の攻撃を見て分かった。私は君にパワー負けしている。剣戟まで持ち込まれたら、私は勝てなかった。今後の為にも、人との戦い方は、私が教える」


「今後の為、ですか?」


「あぁ」


「それって、モンスターだけじゃなく、人と戦う時が来るって事ですか?」


「もしかしたら、な」


「でも、どうしてボクに剣を教えてくれるんですか?」


「世代交代さ」


「世代交代?」


「あぁ、実を言うと、私にはあまり時間がない。だから、教えられる時に、私の剣技をなにもかも教えたい。それだけさ」


「…分かりました。サラさん、ボクに貴方の剣技を、教えてください」


ユキは頭を下げた。


「あぁ、もちろん」


サラはユキを、自分の後継者と決め、この日からサラが師匠となり、弟子であるユキに、自身の剣技を教えた。


そして日が経ち、第十九階層のフロアボス攻略の日がきた。


本来ならば、第二十階層まであるのだから、第十八階層まで解放してる今、残りのフロアボスは二体なのだが、このダンジョンには、フロアボスが全十九体しかいない事が、最初に明かされた。


その為、この攻略が、最後のフロアボスとの戦いなのだ。


「聞いてくれ皆」


二十人いた中の一人、ランキング第二位のサラが指揮をとった。ランキング第一位の剣士は、用事がある為、遅れていた。


「これが、最後のフロアボス攻略だ。気を引き締めてかかろう。そして、勝とう」


いよいよフロアボスとの戦いが始まる。参加した二十人の中に、当然ユキとミユキもいた。


気を引き締める剣士達。


そして、第十九階層に繋がる扉を開けたサラ。そのサラに続き、第十九階層へと入る剣士達。


「…」


辺りを見渡すサラ。真っ暗でなにもないし、誰もいない、そう思っていると、先程の階層を繋ぐ扉が閉まり、その場に明かりが灯された。


「!」


そして、剣士達の視線の先には、第十九階層フロアボス、ハンドラーが待ち構えていた。


その姿は、巨大な人の形をしたドラゴンだった。


「…あれが、最後の」


剣を握り、集中するユキ。


「…ガアー!」


「行くぞ!」


「…!」


「おおー!」


サラが合図をした瞬間、残りの剣士達は、ハンドラーへと向かっていった。


「グウ、ガア!」


「っ!」


「おらっ!」


剣士とハンドラーの戦いが始まった。


「…っ」


サラは、皆に指示を出すため、ハンドラーの動きを観察していた。


そしてハンドラーを見ていると、最初は爪による攻撃をしていたのに対して、今度は両手を上に上げ、そこに魔力を貯め始めた。


「魔力による攻撃がくる!離れつつ、剣で防げ!」


「グルル、ガー!」


ハンドラーによる、魔力攻撃がきた。


剣士達は、サラに言われた通り、ハンドラーから距離をとりつつ、剣で防ぐ構えをとった。


「っ」


魔力攻撃を防いだ剣士達、ラストフロアボスとは言え、剣士達のレベルが高かったこともあり、大したダメージはこなかった。


「…」


ハンドラーは、もう一度魔力攻撃を放つ為、動きを止め、魔力を充電し始めた。


「今だ!攻撃再開!」


「アー!」


「ふんっ!」


「どりゃあ!」


ハンドラーに剣を振るう剣士達。その攻撃はとても効いていて、五本あったHPバーがどんどん減り、残り半分まで削った。


魔力を充電してる間のハンドラーは、防御力がとても落ちた為、攻撃がより効いたのだ。


「…ハァ!」


他の剣士達に負けじと、ユキも攻撃を仕掛ける。


「ふっ!」


ミユキも攻撃を仕掛ける。


そして、魔力が溜まったハンドラーは、またもや魔力攻撃、ではなく、今度は両手を剣の姿へと変えた。


「っ!」


驚くユキ。そしてハンドラーは、シッポを周りにいた剣士達に向かって振った。


「ぐわー!」


しっぽに飛ばされる剣士達。だがユキとミユキは、その攻撃を何とか避けた。


「…」


様子をうかがうユキ。


「グルルルル、ガァー!」


ハンドラーは雄叫びをあげ、剣に魔力を込め始めた。


それを見て、ユキも剣に魔力を込めた。


そして魔力を先にため終わったのは、当然ハンドラーの方だった。ユキはまだためている。ハンドラーがユキに向かおうとした瞬間、ミユキは鎖を使い、ハンドラーの動きを止めた。


「ふうっ!」


「!ガアー!」


そうすると、ハンドラーの剣にためていた魔力が、一気に消えた。


その理由は、魔力をため、攻撃する時、ためきった状態で攻撃する瞬間に動きを止められると、ためていた魔力は自然消滅してしまうという現象だった。


ミユキはそれを、サラから教わった。


サラからメインで教わっていたのはユキだったが、ミユキも強くなる為、サラから教わっていた。


「お姉ちゃん!」


「!」


ミユキからの合図を聞き、ユキは全速力でハンドラーに向かった。


ハンドラーはシッポでユキの動きを止めようとしたが、ユキは相手の動きをよく観察していた為、その攻撃を避けるため、飛んだ。


「…」


飛んだユキは、ハンドラーを斬るため、魔力が充分にこもった剣を、ハンドラーに向け振った。


「ハァーーア!」


「ガァー!」


ユキの攻撃に、ハンドラーのHPバーは、最後の一つまでいった。だが、まだ足りない。


「っ、あと少し…!」


その一撃で仕留めたかったユキだったが、僅かに足りなかった。


そんな時、後ろからサラが、ハンドラーに突っ込み、攻撃を仕掛けた。


「ハァーア!」


「ガァっ」


残り半分、あと誰か一人、攻撃をすれば勝てる状態まで追い込んだ。


「っ!これでも足りないか」


そんな時、後ろから一人の少女が、ハンドラーにトドメをさすため、魔力をため、サラ同様、突っ込んだ。


「神道流抜刀術、蝶(ちょう)」


その少女は、神道流の使い手だった。


そして、蝶のように高く飛び、突きで攻撃し、ハンドラーのHPを全て削り、倒すことに成功した。


「ガァー!」


ハンドラーは倒れた。


「か」


「勝ったぞー」


喜びに浸る剣士達。


「ハァ、ハァ、ハァ」


「お姉ちゃん!」


「…大丈夫?ミユキ」


「うん、お姉ちゃんは?」


「ボクも大丈夫」


「やったな、ユキ」


「はい、サラさん」


「お疲れ様です」


「おお、お疲れ様、サオリ」


そう、神道流の使い手の名は、サオリという少女だった。


「サラさんの知り合いですか?」


「あぁ、彼女はサオリ、ユキと同い年だ」


「そうなんですね」


「貴方がユキさんですね。サラさんからよく聞いてます」


「そうなんですね」


「はい。良ければ、お友達になりませんか?」


「良いんですか!喜んで」


「これからよろしくお願いしますね、ユキさん」


「こちらこそ、サオリさん」


「…ん?」


「?どうしたんですか?」


「いや、アイツ、消えないなと思ってな」


サラの言ったアイツとは、ハンドラーの事だ。それもそのはずで、普通フロアボスモンスターを倒せば、消滅するのだが、ハンドラーは消滅していない。


何故と思っていると、ハンドラーの目が赤く光り、動き始めた。


「っ!」


警戒するユキ達。


だが、そんなハンドラーを、後ろから現れた一人の青年がトドメをさした。


「っ!」


その人物は、サラには見覚えがあり、驚いた。


「グルー」


「…ふうっ!」


その青年による剣技に、ハンドラーは吹き飛ばされ、ハンドラーは消滅した。


「すごい」


突然動きだし、HPが僅かだったハンドラーとは言え、その青年による一撃を見ただけで、ユキやサオリは感じた。


この青年は、ユキやサオリより、遥かに強いと。


「一体彼は」


ユキが口に出すと、サラが話し始めた。


「彼はユウマ、ランキング第一位の剣士だ」


「!?」


いきなりのランキング第一位の登場に、ユキやサオリ、ミユキは驚いた。


「彼が、第一位…」

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