銀花の英雄

雨宮結城

Part1

ソウルワールド。この世界は、浮遊している異世界。


簡単に言えば、空に浮いている世界だ。


そしてその世界には、一から二十階層までの階層が存在し、その中には街や村、野原などがある。


そして、その世界の中心に存在するダンジョン。


そのダンジョンに挑む者達の事を、人々は剣士と呼ぶ。


この世界には、当然様々な職があるが、数ある職種の中で、最も皆が選ぶ職業は、剣士だ。


なぜなら剣士は、最も稼ぎやすい職だからだ。剣の腕が必要にはなるものの、ソウルワールドにおいて、二番目に稼げる職にあたるのが、この剣士。


一番は、この世界を上層部と守る姫の護衛。ミレイユ姫直属の騎士達。


だが騎士という職は、簡単に仕事として叶う剣士とは違い、ミレイユ姫の護衛として相応しいかどうかを判断されない限り、なれない職なのだ。


しかも騎士の仕事は、ミレイユ姫の護衛は当然あるが、基本的には、ソウルワールドに脅威がない限り、ほとんどやる事がないのだ。


しかも、それでいて稼げる。


当然、最初は皆騎士を目指す。騎士になれば、その人が死ぬまでの間、富、名声、金が保証される。


だが、騎士という職は狭き門。ならば、条件がない剣士を選ぶのは、ごくごく自然な流れなのだ。


だから、この世界では剣士を選び、ダンジョンにいるモンスター達と戦い、倒した際にキューブ、あるいは核という球体に変化したものを、ギルドへ行き、取引として、モンスターの核をギルドに渡す代わりに、剣士は金を受け取り、ギルドはその核を上層部へと渡す。


その核は、剣などの武器の材料として使われる。だがそれまでは、核は保管される。


剣士とギルド委員、両者共に得がある取引。


そして、そんな剣士の中で、最も強く、尊敬に値する者は、ランキングの上位者となれる。


ランキングに入るには、ただ剣が強いだけでは、当然なれない。


剣士の中で最も位の高い人間なのだから、剣の腕が強いのはもちろんの事、その人物の人間性、誰もが尊敬するような人物でないと、ランキングに入ることはできない。


ランキングは、第一位から第三位まであり、現在は、第三位は空席で、第一位と第二位の剣士が存在する。


ランキング上位者になれば、騎士達の給料とほぼ変わらない。だから尚更、剣士を選び、皆がランキング上位者となる為、日々ダンジョンで戦っている。


そして、この二人もまた、剣士という職を選び、鳥が空を羽ばたいていく中、森で特訓していた。


「っ!ハァッ!ふうっ!」


「っ!んっ!ハァッ!」


その二人の名は、ユキ、そして妹のミユキだ。


「っ!…ふぅ…ミユキ、そっちは終わった?」


「うん、終わったよ、お姉ちゃん」


「これで剣の振りがお互い五十回。最初のノルマは達成だね。じゃあ、次はダンジョンに行こうか」


「うん」


二人は、剣での特訓を終え、次はダンジョンに行き、モンスターと戦おうとしていた。


現在ダンジョンは、全二十階層ある内、第十八階層まで解放されている。


階層の上に行けば行くほど、モンスターも当然強くなっていく、だが、それと同時に、モンスターを倒した際に出るキューブ、あるいは核の価値が、どんどん上がっていく。


つまりは、取引した際に出る給料の数も多くなる。


ダンジョンには、各階層にフロアボスモンスターがいて、そのモンスターを倒すと、次の階層への扉が開く。


そして、一度倒したら、フロアボスモンスターはもう出てこない。階層のレベルに応じたモンスターは出てくるが、フロアボスモンスターと違って、大人数で挑む必要がない為、強い剣士達は上の階層へと行き、稼いでいる。


ユキとミユキは、第十階層に挑みに向かった。


全九十九レベルある内、ユキのレベルは七十八。ミユキは七十だ。


そして、第十階層に出てくる、モンスターの推定レベルは、高くても五十。


ユキとミユキなら、十分に戦えるレベルの相手だ。


この日も日課として、特訓して少し休憩した後、二人はダンジョンへと向かい、稼いでいた。


「ハァーア!」


剣でモンスターを倒すユキ。


「…ふうっ!」


「…グルル」


「ハッ!」


「グルアー!」


鎖を使い、モンスターを抑え、剣でトドメをさしたミユキ。


ユキは、片手剣。ミユキは鎖と片手剣で戦っていた。


剣士のスタイルは、人によって様々な形があった。


剣で戦う者、細剣で戦う者、斧や鎌など、人によって様々だ。


ユキは右手に剣一つのスタイル。ミユキは左手に鎖、右手に剣のスタイルで戦っていた。


「ほお」


そしてそんな二人を、たまたま通りがかった一人の剣士が、二人の戦いを見て、興味をもった。


「やったねミユキ、お疲れ様」


「うん、お姉ちゃんもお疲れ様」


ノルマである、ダンジョンでモンスターを合計百体倒す。そのノルマを達成し、一息つくユキとミユキ。


「いやー、今日も良い汗かいたね」


「流石だよね、お姉ちゃん。百体の内、八十体は倒してたし、私なんて二十体だけ」


「でも、ミユキの剣の腕、確実に上がってるよ。これなら、次は上の階層に行っても大丈夫そうだね」


「そうだね。私、人と息を合わせて戦うの、苦手のはずだけど、お姉ちゃんとだから、気にせず戦える。だから、上の階層でも問題無いと思う」


「そうだね、ボクとミユキなら、きっと大丈夫」


「うん」


二人が会話していた中、先程から二人を見ていた一人の剣士が、拍手しながら近づいてきた。


「いやー、君達強いね」


「?」


「十階層のモンスター相手にここまで、いや、と言うより、戦い方を見て分かったよ。君達二人共、かなり経験を積んでいるね」


「…あの、貴方は一体」


ユキが一人の剣士に聞いた。


「あ、これは失礼。私の名前はサラ。一応、ランキング第二位の剣士だ」


「!ランキングの方ですか」


「あぁ、と言っても、私はそこまで強くないがな」


「?どういう事ですか?」


「一応ランキングに入れてもらってはいるが、ランキング第一位は強すぎるし、最近の剣士達のレベルも上がってきている。第三位は今空席だが、いずれ私も交代の時がやってくるだろうからな」


そう、ランキング上位には入れても、更に凄い逸材がやってくれば、交代される仕組みなのだ。


「特にキミ、先程の剣での戦いは凄かった。名前はなんて言うんだい?」


「ボクはユキです」


「ユキか、キミは?鎖で戦っていたけど」


「私は妹のミユキです」


「お、姉妹か。どおりで息のあった連携だと思ったよ」


「ありがとうございます」


「二人共、ボス攻略には顔を出してないのか?」


「はい、ボクもミユキも、人と息を合わせて戦うのが得意ではなくて、だから、こうして二人で、戦っています」


「なるほどな。…提案なんだが、二人共、一度だけでも良いから、ボス攻略に参加してみないか?人との連携は、私が教える」


「ボス攻略ですか、確か次の攻略って」


「あぁ、第十九階層だ。恐らく、これが最後の攻略だろう。何せこの世界は二十階層までしかないからな」


「最後…」


「あぁ、最後だから、せめて二人に、ボスとの戦いを通じて、良い経験になればと、思ったんだが」


「…」


「どうする?お姉ちゃん」


「…ミユキはどうしたい?」


「私は、ボスとの戦いは、緊張はあるけど、良いと思う」


「そっか、うん、じゃあ、連携はサラさんに教えて頂くとして、ボクとミユキ、ボス戦に参加してみたいです」


「…その言葉を待ってたよ。あぁ、是非来てくれ」


「…あ、ただその前に、一つ良いですか?」


「ん?どうしたんだ?」


「ボク、一回だけサラさんと手合わせしてみたいんです。ランキングには興味あるし、第二位のサラさんの実力を、知りたいんです」


「…あぁ、そんな事でいいなら」


「ありがとうございます」


ユキは、ランキング第二位の実力を知る為、だがサラも、ユキの実力を知る為、二人の戦いが、始まろうとしていた。

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