遊郭モノってどう書くん?(有益度★★★)

 以前にもエッセイでちらっと書いたんですが、私は大学時代に近世文学を専攻していましたので歌舞伎とか黄表紙とか遊郭文化みたいなものはまぁ一通りは触れてきているんですよね。

 でも、そういうテーマで書こうと思ったことはまったくない、というか書き方がわからない。

 別に知ってるから書けるってもんでもないよってことを今日は書きます。


 これも参考文献回で触れようと思った作品なんですが、松井今朝子先生の『吉原手引草』という超絶傑作があります。

 これは直木賞も獲っている超有名作品ですし、文庫にもなってますのでまぁ参考文献っていうのも違いますわね。

 で、この作品の何が優れているかって話なんですが、歴史モノっていうのは前提となる知識がある程度求められるハイコンテクストなジャンルだと思うんですけど、この作品は吉原とか遊郭について何も知らなくても読める上に読み終わったら遊郭を一通り見て回ったかのような気分になれる造りになってるんですね。


 ざっくりあらすじを紹介しますと――。

 ある日吉原一の太夫・葛城が行方不明になります。狭い吉原からどうしてナンバーワン遊女がいなくなったのか、どうやっていなくなったのかという謎を解くミステリーになってます。それを正体不明の男(最終的にはちゃんと明かされます)がはじめて吉原に来て、色々と遊び方を教えてもらいながら調査していくという流れです。

 はじめて来たので遊び方がわからない(というのが聞き込みの口実になっているわけですが)ってことで色々教えてもらうので、読者側も説明台詞くさく感じることなくすんなり受け入れられるのが良いですね。


 これけっこうな発明だと思いますので、一度読んでおくと書き手の皆さんの武器のバリエーションも増えるのではないでしょうか。

 とはいえですね、これと『吉原十二月』を読んで、満足してしまって吉原について何か書きたいという気持ちは湧かなかったんですが、最近ふと他の作家さんってどういうことを書いているんだろう? という疑問が湧きまして。


 で、最近カクヨムで遊郭モノをちらほら探す中で、面白い作品を見つけて、なるほどこういうバリエーションもあるのかと。

 このエッセイにも応援ハート入れていただいているので、紹介しちゃってもいいかと思って載せちゃうんですけど、悠井すみれさんの『あやかし遊郭の居候 ~明治吉原夢幻譚~』という作品なんですが面白かったですね。


 https://kakuyomu.jp/works/16817139557994398080


 あやかし(妖怪)と明治の遊郭という組み合わせなんですけど、時代から取り残されていく二つの要素に、謎がある主人公の少女という異質な存在を掛け合わせていくという発想がすごく良いなと。

 全体的にクオリティも高くてですね、オススメですね。書店で売ってる書籍みたい。

 あとこれは個人的にそうだったというだけなんですが、縦組表示にすると読みやすかったです。

 作品(作家さん)によって縦と横で読みやすさが変わってくる現象については自分の中で割と謎なんですが、いつか言語化できるといいなと思っています。


 ここまでが参考になる作品のお話なんですが、次にちょっとした取材のお話。

 実際に行けるのであれば行ってみるのも面白いよっていうのとちょっとした豆知識なんですが、吉原っていうのは今も現地には行けるわけです。

 学生時代に幕末の頃の地図持ちながらおそるおそる現地にフィールドワークに行ってきたんですけど、今でも色々と見るべきところがあるわけですね。

 そもそも吉原っていうのは狭い狭いと色んなところで見かけるわけですが、どのくらい狭いの?っていうのは感覚的にわからないじゃないですか? 今行ってもなんとなくわかりますよ。

 マジで狭い。え? こっからここまでしかないの? 花魁道中ってなんとなくエレクトリカルパレードくらいの感じでイメージすると思うんですけど、こんなの一瞬で終わるやん、っていう距離感です。

 次に見返り柳。吉原の入り口にあったという柳の子孫の木が今でもあってちゃんと看板も立ってます。遊郭から帰るときに、名残惜しいなーって振り返るところに立ってたという木ですね。

 あと投げ込み寺とかも今でもありますね。吉原からちょっと離れた南千住の浄閑寺とか。亡くなったり病気になった遊女を投げ込んでいたといいますね。

 こういうところに行くと、遊女文化っていうのも煌びやかで良いもんばかりでもないよっていう一面とかも見えてきますね。

 長くなってきたのでもう廓詞とか下駄とか内八文字とかについては書かないので、気になる人はご自身でググってみてください。色んなものにファッション以外の理由があるんだなーっていうのがわかります。


 まぁフィールドワークまで行った上で書いてこなかったし(卒論も人情本にした)、これからも特に書く予定もないので、タイトルに戻るわけですね。

「遊郭モノってどう書くん?」

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