第11話 絶対正義の否定
私は昼休みに図書室棟の隣で『剛力の剣』を召喚して剣術の稽古をしていた。
「頑張っているじゃないか」
木の影から私に声をかけてくる人がいた。氷河さんだ。
「『絶対正義』には強さが必要だからな」
「ふ『絶対正義』か……」
余裕の表情の氷河さんはポッキーをポリポリ食べていた。
「それて、要件は?」
「おっと、そうだった、海戸に勝ったそうだな」
「え、ぇ、敵討ちですか?」
「あの弱虫の為に敵討ち?気のきいたジョークだ」
氷河さんは笑うが眼差しは真剣であった。冷徹で獣のような目つきであった。氷河さんはポッキーを食べ終わると。
「その『絶対正義』を潰しにきた」
決闘の申し込みだ。やはり『絶対正義』を嫌っていた。
「明日の夕刻にこの広場で決闘だ!私が勝てば、その『絶対正義』のはく奪で良いな」
「『シャドーカード』じゃないのですか?」
「そんなモノは要らない、勝ったら陣にでもくれてやる」
それは冷たい表情であった。氷属性にふさわしい表情である。イヤ、その心が氷を求めている様であった。昼休みが終わり、私は教室に戻る途中に輝夜さんとすれ違う
「輝夜さん、やはり『シャドーカード』は必要なの?」
「はい、このカードを使ってどうしてもしたい事があります」
「そうか……」
今回の決闘のメインは『絶対正義』であった。
『絶対正義』
私の大切な思い出……。
そう、それは私が私である為のアイデンティティだ。
夜……。
私は不思議な夢を見ていた。見知らぬ部屋で氷河さんを上から見ていた。そして、氷河さんの思念が流れ込んでくる。
―――……。
明日の決闘で私はすべてを賭けることにした。相手は『絶対正義』を公言する『炎華』なる五芒星の女子生徒だ。私は五芒星の一人と戦うのである。命など要らない……そう、すべてを賭けるのだ。そして、この世界に『絶対正義』など存在しない事を証明する為に勝つ事を誓う。
うん?
メールが届いている。別居中の父親を名乗る人物からだ。内容はお金を貸して欲しいとの事であった。私はメール消して眠りにつく。
―――……。
更に不思議な事に氷河さんの夢が私の心に流れ込んでくる。
……。
幼い私が父親に甘えている。
「お父さんは『正義の味方』の警察官だよね?」
私が父親に近づいて問いかけている。
「おう、俺は『正義の味方』だ」
父親は腕を組み自信満々に私に返事を返す。
「凄い、凄い!」
私はそんな父親に抱きついて甘える。そう、私の父親には警察官であった。そんな父親は私の誇りであった。
……。
「あなた、なんで事故なんて起こしたの!」
「仕方ないだろ、動物が飛び出してそれを避けるためだ」
私の父親は交通事故を起こして依願退職に追い込まれていた。警察官を辞めた父親は変わってしまった。昼間から酒を飲み、荒れた生活になっていた。両親の別居は時間の問題であった。
……。
「お母さん、お父さんは『正義の味方』だよね?」
「うるさい!あんなクズのことは忘れなさい!」
母親も生活の為に無理をしてイラ立っていた。理屈で理解しても心が受け入れられないでいた。私は強くなる事を心に誓った。それは、私の『正義』の否定であった。
それから、召喚術の特待生で学費を得て高校に進学した。そして『北斗』に出合い、裏から学園を支える力を得ていた。
……。
夜中に昔の夢を見ていて、目が覚める。
夢か……。
私は今日の決闘で『絶対正義』の否定をあらためて誓う。
『絶対正義』など存在しない。
力だけが信じえるモノだ。少し寝不足だがこのまま起きている事にした。幼き日の思い出の悪夢で目が覚めたのだから。もし、決闘で負けたら、過去の父親の『正義』に負けたのであろう。そんな気分で夜中から朝を向かえた。
―――……。
それは、氷河さんの決意であった。私は決闘で『絶対正義』をかけた。
『生きる道は『絶対正義』のみ。消える事ない蒼色の瞳はこの決意に我あり』
さて、今日は決闘だ。
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