第10話 決意表明
休日にクローゼットの奥にある段ボール箱を見ていた。もう着られなくなった服を捨てようと思う。一番下にあったのは青い油性ペンで書かれている『絶対正義』のTシャツだ。
これは私の『絶対正義』のプロローグである。
―――……。
ある夏の日の事でした。大型の台風が私の街に近づいていた。私は両親と共に避難所に来ていた。幼い頃から鍵っ子の私の友達は野良猫のチビであった。ラジオから流れる緊急事態に私は野良猫のチビを助けようと避難所を抜け出していた。少し離れた所にある、崖の下の小屋へと暴風の中を一人で進む。
小屋に着くとチビが鳴いていた。うん?崖の様子がおかしい。
上の崖が崩れそうであった。私は恐怖から動けなくなっていた。
「炎華ちゃんだね?」
動けなくなった私に声をかける若い男性が小屋に入ってくる。その瞬間に岩が転がり落ちて小屋を直撃する。若い男性が私をかばってくれて無事でいた。その男性は壊れた小屋の材木で大ケガをしていた。
「大丈夫か?」
「はい……」
その後で何人もの大人が来て助けてくれた。避難所にチビを連れて戻ると両親は泣いていた。その夜の事は、それ以外はよく覚えていない。
翌日。
台風が去り、嵐が収まると。腕に包帯をした私の命の恩人が顔を見せてくれた。その人は隣町の職員さんであった。
「小屋が潰れてしまったね、その猫は僕が面倒みるよ」
優しい声で私に話しかける。
「うん、大切にして……」
私は家に帰ると、Tシャツに『絶対正義』の文字を書く。それは決意表明であった。こんな時代でも私の為に命をかけてくれた人がいたことの決意表明。その後すぐに親の仕事の都合で引っ越す事になった。名前も知らない隣町の職員さんには、その日を最後に会う事は無かった。
でも、私の『絶対正義』は変わらなかった。
―――……。
うん?
どうやら疲れてベッドで寝てしまったらしい。横にあるのは小さなTシャツの背中に『絶対正義』の文字……。
私は小さなTシャツを大切にしまう。あの日に誓った事は変わらない。
私の『絶対正義』の生き方は不変である。
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