人類解放軍。

夕日ゆうや

ジューンセンチュリー

 ジューンセンチュリー275年。


 我々人類は地球に居続けることをやめて、その生活圏を宇宙まで広げていた。

 人類はスペースコロニーという遠心力で疑似重力を生み出す筒の中で暮らすことになる。


 静かな宇宙の中、自分の息づかいが聞こえてくる。

 宇宙を漂うこと、数日。

 そろそろ酸素の残量がない。

 私は通りかかった宇宙軍艦に救助された。

「俺はガウマン。名前は分かるか?」

「アーシア=トラント」

「アーシアさん、ね。っで、なぜあんなところを一人で?」

「……分からない」

 一人の軍人がドアを開けて入ってくる。

「軍医によると酸素欠乏症で記憶が飛んでいる可能性があるらしい……。可哀想に」

「そうか。もう少し情報を引き出したい。やれるか?」

 その後も二、三質問をされた。

「そろそろ、腹が減っただろ? 艦内では金曜日はカレーなんだ。曜日感覚を取り戻す意味合いがある」

 カレーを食べる私とガウマン。

「氷漬けにされたマンモスが見つかったように、何か発見があるかもしれない。思い出したらでいい。俺に教えてくれ」

「はい。分かりました」

 私は頷くと、部屋を貸してもらえるらしい。

 ガウマンが立ち去ったあと、私は口の端を歪める。

「ふ。甘いね」

 今が戦時中というのが頭から抜け落ちているのではないか。

 私は艦橋に向かい、仕込んでいた爆弾を放り込む。

 爆発。

 血と肉の焦げる匂い。

 艦橋を奪った時点で、この戦艦は落ちた。

 オペレーション、デイブレイク。

「ははは。簡単だったな」

 私は高笑いをし、先ほどまで一緒に食事をしていたガウマンの死体を見やる。

「……悪いのはそっちだ。人間を管理しようなどと」

 私の中で芽生えたこの気持ちはなんだろう。

 分からない。

 でも私の任務はこれから情報を引き出すこと。

 端末に接続し『人類管理国家軍』の機密データを盗む。

 私はスパイなのだ。

 これで『人類解放軍』によい思いをさせられる。


 きっと戦争が終わる。

 すべては平和への足場作りなのだから。

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人類解放軍。 夕日ゆうや @PT03wing

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