第12章

12-01 新天地を目指して

 私たちのいるシェルターから北北東に向かって、白い砂のエリアが約3kmつづく。


 白い砂を吸い込まないよう、全員マスクを着用した。

 砂に足を取られて歩きづらい。

 私たちは、ただ黙々と歩き続けた。


 やがて、白い砂のエリアの終わりが見えて来た。

 その先は、森林火災によって焼けた木々のエリアである。


 そして、ようやく白い砂のエリアを抜け、黒く焼けた木々のエリアに入った。


 そこでも、動物の気配が無い。

 ただ、焼けた木々が横たわっている。


 しばらく進んだ後、私たちは、ここで一旦休憩を取る事にした。

 私と詩織は、焼けて横たわる木の幹に座り、背中に背負った荷物を降ろした。


 マスクを取ると、新鮮な空気が体内に流れ込む。

 炭になった木々が、活性炭のような役割を果たしているのだろうか。

 実に気持ちいい空気だ。


 しかし、このエリアは足元が不安定で、横たわる木々を避けながら歩いて行かなければならない。

 これは、いままでの白い砂のエリアより大変だ。

 そして、このエリアも約3km続くことになる。


 ここで、足をくじいてしまったら大変である。

 そこで、認識の共有を全員で図った。


 足元に注意して歩く事。

 慎重に一歩一歩、進む事。

 時間が掛かってもかまわない事。

 こまめに休憩を取る事。


 そして、約30分の休憩を終えて、私たちは目標に向かって再び歩き始めた。


 男性2人が前を歩き、足場の良い道を探しながら進む。

 その後ろを女性4人が一緒になって進み、障害となる木などを互いに手を引いて乗り越えていく。


 そして男性1人がその後ろを歩き、前を進む女性達を確認しながら、何かあれば先頭の男性2人にトランシーバーで伝える。


 そして、3回の休憩を挟んで、ようやく焼けた木々のエリアを抜け、森林エリアに到達した。


 しばらく歩くと、森林の中で、木の生えていないエリアがあった。

 時計を見ると、午後2時を過ぎたところ。

 少し遅くなったが、ここで昼食を取る事にした。


 ……しかし、ここでも鳥のさえずりなど、一切聞こえない。

 そして、動物にも遭遇しない。

 本当に、どうしてしまったのか。


 脳裏に浮かんでしまう。

 まさか、この地球上で、生き延びているのは私たち7人だけ……。

 みんなも、そのような事を想像しているのだろうか。

 しかし恐ろしくて口に出せない。

 そんな時は、あの魔法の呪文を唱えることにしている。


『みんな無事。避難している。みんな何処かで生活している!』


・・・・・・


 地面に生えている草の上にシートを敷いて、お弁当を広げた。


 お弁当を食べながら、上空写真を広げた。

 今いる木の生えていない場所が何処か、上空写真で確認し、目的地への方向を方位磁石で確認した。


 昼食を終えて、十分な休憩を取った私たちは、詩織が見つけたポイントに向けて、歩き出した。


・・・・・・


 そして、迷いながらも、なんとか目的地に辿り着いた。

 その時は、日もだいぶ傾いていた。


 何軒かの山小屋が確認出来る。

 私たちは家の前まで行き、声を掛けた。

「ごめんください!」

 返事が無い。


 玄関扉を叩いて、再び声を掛けた。

「すみません!どなたか居ませんか!」

 まったく物音がしない。


 玄関扉に手を掛けると、カギが掛けられていない。

 私たちは、別の家の前に行き、同じように声を掛けた。

 しかし、どこの家からも、応答が無い。

 そして、カギも掛かっていない。


 私たちは、山小屋の中へ入る事にした。

 中で、人が倒れているかもしれない。


 しかし、何処の山小屋にも、人は居なかった。


 そして、何処の山小屋にも車庫があるが、車が無い。

 まあ普通に考えて、森林火災が起こり、車で避難したのだろう。


 では、何処へ避難したのか。

 そして、避難した人は、何故戻ってこないのか。


 ここの人達が利用していたであろう山道がある。

 車で走れるだけの道幅があり、ここから北へ向かっている。

 この先になにがあるのか、調べる必要があると思った。


 皆で話し合った結果、ここの山小屋を使わせてもらう事にした。

 ここの人達が戻って来たら、それ相応の賠償を行えば良いだろう。

 とにかく、今は非常時である。


 私たちは、ここに新しい生活拠点を構える事にした。


 荷物を降ろし、広場のような所に全員で集まった。

 もう、だいぶ暗くなってきた。

 明日この辺りを全員で散策する事にした。


 利用出来そうな山小屋が8軒ある。

 各自、好きな山小屋を選ぶ事にした。


 BMさんとB子さんは、同じ山小屋を選んだ。

 そして、詩織も私と同じ山小屋で過ごしたいと言った。

 まあ、別の部屋で寝れば良いだけだ。


 今晩はここで火を焚いて、その火を囲んで、みんなで夕食を頂いた。


 今日は疲れた。

 しかし、無事に目的地へ着く事が出来た。


 詩織は、自分が背負っていた荷物を降ろし、中から何か探している。

 そして、それを取り出して私に渡した。

「レイさん、どうぞ」


 なんと、それは缶ビールだった。

 荷物は、少しでも軽くすべきである。

 それを、詩織は、私の為に……。


 私は感極まった。

 やばい!

 私は今晩、詩織を食べちゃいそうだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 次回:初めての朝

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