10-02 別世界

 BMさんがスレーブユニットを背負い、私がケーブルを担いだ。

 私とBMさんは特殊なマスクと手袋を装着した。


 次にトランシーバーと放射線量計は、ビニールパックに入れ、私はトランシーバー、BMさんは放射線量計を装備した。

 ケーブルを通した穴を塞ぐ粘土状のパテと、サンプルを持ち帰る為の容器を持った。


 何かあれば、直ぐに引き返す事。

 常時トランシーバーでの状況報告。

 この2つを言い渡され、みんなから心配されながら、私とBMさんは地上に向けて出発した。


 ルート1の階段を上り始めた。

 各階の隔壁を確認する為、最上階まで登った事がある。

 特に問題はない。


 BMさんが先に登っていく。

 私は、各階の壁に用意された穴を確認し、その穴を塞いでいる部品を外してケーブルを通しながら登っていく。


 いまのところ、放射線量計に、大きな変化は無い。

 随時トランシーバーで状況を報告した。


 そして、最上階の隔壁に着いた。

 最後の隔壁は、天井である。

 この隔壁を開ければ地上である。


 この隔壁が開けられないと、非常に厄介である。

 隔壁を開ける為の大きな円型のハンドルを回した。


 ハンドルが重い。

 しかし、何かが破損している感じはない。

 BMさんと一緒になって、ハンドルに力を加えた。


 最後の隔壁が開いていく。

 外の光が入って来た。

 天井の開いた隔壁の隙間から、砂が降って来る。


 放射線量計に注目した。

 特に大きな値は示さない。


 最後の隔壁、かなり分厚い。

 ハンドルを回して一気に開けた。


 トランシーバーから「どうしました!どうしました!」との声が響く。


 私とBMさんは、開けた隔壁の天井に続く階段を上っていく。

 そして私とBMさんは、地上に出た。


 まさにそこは、別世界だった。

 

 地平線の彼方まで、見渡すかぎり白い砂の世界。

 ここは……砂漠か?


 上を見上げると、真っ青な空。


 近くに白く焼けた建物が見える。

 ああ、これは、私たちが住んでいた宿泊施設の跡だ。


 庭園や、その周りを囲む鉄製のフェンス。

 そして、その外側にあった森林地帯は全て焼け、真っ白い灰となったのだろう。


 この時の核爆発のすさまじさが伺える。

 真っ白い灰は雨によって固まり、このあたり一面を砂のようになって覆っている。


 放射線量計の値を見ると、まだ少し高い。

 短時間であれば問題ないが、地上で住むとなると、若干危険なレベルだ。


 スレーブユニットを地面に設置した。

 そしてケーブルを繋いだ。


 これでシェルターにいるみんなも、ビデオカメラを通して地上のようすを見る事が出来るはずである。


 トランシーバーで伝えた。

「地上のようす、見えますか」


 C子さんが返した。

「AMさんとBMさんしか見えません。あとは真っ白です」

「了解」


 私は、地表の表面の白い砂をサンプルとして容器に詰めた。

 シェルターにいるB子さんが、無線で伝えた。

「早く戻ってきて下さい」


 私は「了解」と応えた。

 私とBMさんは、シェルターへの階段に向かった。

 その途中、私は立ち止まり、再び空を見上げた。


 久しぶりに見た空。

 その時、私が感じた違和感のようなもの……。

 しかし、その時の私は、それを気にする事なく、階段を降りた。


 最上部の隔壁は、ダメージが大きい事から、このまま開けたままにして、2番目の隔壁から閉める事にした。

 穴にケーブルを通して隔壁を閉じ、隙間をパテで埋めていく。


 各階でその作業を行い、降りて行く。

 シェルターに着いた。

 線量計とトランシーバー、それとサンプルを入れた容器をワゴンに乗せた。


 階段横に造られているシャワールームに私とBMさんは入った。

 手袋、マスク、それと着ていた服を全てビニール袋に入れた。

 そして、丹念に体中を洗剤で洗い、地上で付着した放射性物質を含むチリを洗い流す。


 私がシャワールームから出ると、詩織がいた。

 そして詩織は私に飛びついてきた。


 私は詩織の肩を抱きながら言った。

「ただいま」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 次回:(第10章 最終話)海風と陸風

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る